小さい頃からずっとヴェントゥスのことが好きで、最近になってやっと思いを打ち明け恋人になれた。キスした回数はまだ少ない。いつもヴェントゥスからしてくれて、私からもすごくしたいけれど、恥ずかしくなってしまってできていない。もっと好きってことを伝えたいのに。
 そんなことを考えていたある日、【ポッキーの日】という文化がある異世界のことを知った。



「ヴェン、お菓子食べよう」

 ポッキーの箱を握りしめてヴェントゥスの部屋を訪ねた。快諾したヴェントゥスとベッドの上に腰かけて、細長い棒の形にチョココーティングされているお菓子を取り出す。ヴェントゥスは初めて見るお菓子に興味深々で、一本あげると「おいしい」とニコニコした。満面の笑みがとってもかわいい。

「あのね、このお菓子を使ったゲームがあるんだよ」
「このお菓子で、ゲーム?」

 食べ物で遊んではいけないとマスターに躾けられている。私がそんなことを言うなんてと、ヴェントゥスはビックリ顔で瞬きしていた。
 いそいそとポッキーを一本取り出しながら説明する。

「互いにこのお菓子の端を咥えて、多く食べたほうが勝ちってゲームなんだって。先に口を離しても負け」
「え、でも、それって……」

 ヴェントゥスの頬が染まっていくのにつられ、私の頬も熱くなってくる。

「やってみる……?」

 断ってもいいよ。逃げ道を用意したけれど、ヴェントゥスはすぐに「うん」と頷いた。



 はむっと互いに同じポッキーを咥えた瞬間、視線が交わりすぐに逸らした。この距離でキスを意識しない人はいないと思う。自分で誘っておいて、恥ずかしさに顔から火がでそうだった。
 ヴェントゥスは動かないし、私も動けない。そのまま数秒が経過したが、数分にも数十分にも感じた。
 私からキスをしたくて異世界の文化まで持ち出してきたのだ。私から動かなければ。勇気を出してひとくち進む。
 ポッキーからポリッと音がしたとき、ヴェントゥスがピクリと揺れるのが伝わってきた。大変なのは初めの一歩。それから先は簡単なもので、私はそれをきっかけにポリポリ、カリカリほんの少しずつポッキーを噛んでいった。肌にヴェントゥスの肌の温度を感じるほど、唇が触れそうになるくらい近づいたとき、パキッ! とヴェントゥスがポッキーを噛みきった。
 キスできなかった。
 咀嚼しながらヴェントゥスを見ると、彼は真っ赤な顔で力なく困り笑いした。

「これは、俺の負け?」
「うん。私の圧勝……」

 企みが失敗した気落ちを隠しながら答える。ヴェントゥス、キスしたい気分じゃないのかな。
 でもめげない。だって、ポッキーはまだ何本だってあるんだから。

「もうちょっと勝負しない?」

 持ちかけると、ヴェントゥスも「うん」と快諾してくれた。やっぱり、ヴェントゥスだってキスしたいと思ってくれているとこの時は思っていた。



 ポッキーが全部なくなったが、未だ私はヴェントゥスとキスをできていなかった。この世の終わりのような気持ちだった。
 えっ、ヴェントゥスは私とキスしたくない感じ? 前のキスのときになんかキモイことしてしまったっけ? 涙目になっていた。

「……ポッキーなくなっちゃったし……私、行くね」
「あ、フィリア。ちょっと待って」

 フラフラと部屋を出て行こうと扉のノブを掴むと、ヴェントゥスから呼び止められた。

「なに?」

 振り返るとヴェントゥスがやってきて、顔が近づき唇にチュッとした感触が与えられる。

「へぁ――?」

 あまりにも自然な動きであったのと、想定外のことに間抜けな声が出てしまった。
 ポッキーでは頑なにキスをさせてくれなかったのに。ヴェントゥスは自分からするのが好きなのだろうか。
 いろいろな考えがぐるぐる巡ったが、ヴェントゥスがニコッと微笑んでくれると、全てどうでもよくなってしまった。





★★★




 ずっと大切に想っていた子と恋人になってから、キスをしたことはまだ少ししかない。キスをするとガチガチに緊張してしまうフィリアに合わせてあげているつもりだった。
 そんな調子だったから、もちろんフィリアからキスをしてくれたことはまだなかった。だから嬉しくて、ゲームの回数分、フィリアがキスを迫ってきてくれるのを満喫した。キスしたらゲームをやめてしまうんじゃないかと考え、最後にしてもらおうと思っていたら、ついついお菓子がなくなってしまったのは失敗だったけれど。
 悲しませるつもりは微塵もなくて、しょんぼり部屋を出て行こうとしたフィリアを慌てて引き留めてキスすると、パッと瞳を輝かせて喜んでくれた。自分がキスするだけでこんなに喜んでくれるなんて――すごくかわいい。
 彼女の口端にチョコがつけていたので、指でぬぐう。

「ごめん、フィリアがキスしてくれようとしたのが嬉しくて」
「う、嬉しかったの?」
「すごく」

 慌てるフィリアがまたかわいいと笑っていると、むうっと頬を膨らませたフィリアにぐいっと襟を引っ張られた。あ、キスされる――と思ったら、勢いあまってガチッと歯がぶつかった。




2.11.8
公開2.11.10




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