空中庭園を通る風が花びらを運ぶ。薬について悩んでいたため、辺りはすっかり夕暮れだ。
 やっぱり、こんな薬なんて人に使ってはいけない。早く友だちのところに帰ろう。

「さっきから、何を持って悩んでいるんだ」
「へ? あっ!」

 いつものことながら、気配を感じなかった。いつからいたのだろう。当然のように立っていた若き頃のゼアノートが私から取りあげた薬を面白がるように覗き込んでいる。

「ちょっと、返して、返してってば!」

 ジャンプして取り返そうとするけれど、ぎりぎり届かない高さに持ち上げられる。
 恋の薬とか絶対、絶対揶揄われる。いじめられる。恥ずかしくて涙目になりかけたとき、キュポンと瓶の栓がはるか頭上で開けられた。ああああっと叫びかけたとき

「そんなに返してほしいなら、返してあげよう」
「むぐっ――!?」

 口の中に瓶の口をつっ込まれた。そのまま瓶をぐいと持ち上げれるため、私の顔も上を向き、ごくんと薬を飲み込むはめに。ひどい。
 激しく咳き込むも、飲み下した薬が出てくることもなく。なんてことしてくれるんだと彼を睨むと、くらくらっとめまいがした。うぇ、気持ち悪い。
 足元がふらつき倒れそうになったところを、ゼアノートが支えてくれたが、こんな優しさは求めていない。

「30秒間、恋に落ちた瞬間のようにクラクラになる薬クポ……と説明書きが添えられていたのを見ていないのか?」
「え、惚れ薬じゃないの……」

 戦闘用のデバフのアイテム。それじゃあ何のためにこんな長時間悩んでいたの。ショックを受けていると、呆れかえった瞳と視線が合う。

「そもそも、ポーションやエーテル程度の難易度の薬に、おまえが思っているようなレベルの効果が付与されているわけがないだろう」

 バカじゃないのかって言われている気がする。いや、この顔はそう言っている。

「それとも」

 未だ眩暈を起こしているというのに、かまわず顎を持ち上げられた。性格はともかく、顔だけはカッコイイので、安易に近づけてこないでほしい。それとも、知っていてこういうことしているのかな。

「おまえが欲しいなら、本当にそういう薬を作ってきてやろうか?」

 くすっと微笑んでくるけれど、絶対私の望むように使わせてくれるわけがない。実験体にするつもりだ。そういう人だ。
 私は彼の美しい顔を、必死に手を突っぱねて遠ざける。

「絶対、いらない!」

 それでも後日、本当に作ってこられて――――もうホント嫌。






2.4.23




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