あんなことがあったせいで、リクの様子が気になって、あの日から頻繁にリクを観察していた。すると、こちらの視線に気づくのか、リクとしょっちゅう目があって、彼はその度ニコッと目を細めて笑んでくれる。そんなことを繰り返していたら、気づいてしまった。サラサラな銀髪に、しっかりと鍛えられた身体、整った顔立ち。勇気と責任感と、正義感に満ちた言動。リクって実は結構――いいえ、かなりカッコイイ男の子なんじゃないかって。
 そうしたら、なんだかリクからの視線が気になるし、微笑まれたら恥ずかしくなるし、名前を呼んでもらえると嬉しくなるしで、ソワソワと落ちつかなくなってしまった。恋の薬をリクにかけたのは私なのに、まるで私がリクに恋をしてしまったみたい。そこで、また気づく。まさか、あれは薬を浴びた人が周囲を好きにさせてしまう薬だったのだろうか。これから先、リクが出会う女の人全員に惚れられちゃう体質になってしまっていたら大変である。
 一応、薬を作ってくれたモーグリたちにも相談をしてみたが「そんなすごい薬じゃないはずクポ―?」と首をかしげるばかり。解決策が見つからない。
 悩んだ末、友だちなら解決に力を貸してくれるのかもしれない。そう期待して、ひとりでトワイライトタウンの友だちへ会いに行った。ハイネ、ピンツ、オレットはいつも通りシーソルトアイスを片手に夕日の街で仲良く遊んでいて、こちらを見るなりよく来たと歓迎してくれた。
 一緒に時計塔でアイスを食べる。今日はまだ、ロクサスたちは来ていないらしい。

「久しぶりに会えて嬉しいけど、フィリアがひとりで来るなんて珍しいね。何かあったの?」
「あのね……相談したいことがあって」

 ピンツにそう答えると、瞳を輝かせだす三人。ちょっと恥ずかしいけれど、リクのことを相談することにした。

「その恋の妙薬っていう薬のせいで、リク君のことが気になるようになっちゃったってこと?」

 頷くも、改めてオレットに事情を整理されると、すごく恥ずかしかった。ハイネとピンツは男子だし。

「リク、ただでさえかっこいいのに。あの薬のせいで、リクがこの先、出会う人たちを魅了するような体になっちゃっていたら、どうしよう」

 リクの人生に余計な苦労を課してしまったのだろうか。どう謝罪すればよいのかわからない。食べ終えたアイスの棒を弄びながらウジウジしていると、三人がなにやら困り顔で視線を交わしていた。言いにくいことがあるような、気まずそうなものだ。
 こういうことは得意じゃないと前置きして、ハイネがため息を吐いた。

「つーか、リクは普通にモテるだろ。あいつが来るたび、トワイライトタウンの女の子たちが騒いでるの、知らないのか?」
「エッ、そうなの?」
「うん。あのカッコイイ人は誰なのって、私たち、けっこう訊かれてるんだ」

 オレットも苦笑する。リク、そんなことになっていたんだ。

「そんな。今もモテすぎて大変なのに、私のせいで……」

 ハイネが呆れた声で言った。

「いや、リクはおまえたちにしか興味ないだろ。あいつ、知らない奴には結構そっけないんだぜ」
「そうそう。この前も、フィリアに話しかけようとしてた男の人がいたけど、リクが――」

 そのとき、こちらを見ていたピンツの表情がアッと変わり口を両手で塞いだあと「僕は何も言ってない」と顔をそらした。

「俺がどうかしたのか」
「リク!?」

 振り向けば、真後ろにリクが立っていて飛び上がる。いつからいたのだろう。薬のこと、聞かれてしまっただろうか。

「フィリアがひとりで出かけたって聞いたから、迎えに来たんだ」

 銀髪を夕日に輝かせながら微笑むリクは、あの薬をかけてしまった日のように、やっぱり、すごくかっこいい。
 っていうか、最近のリク、私のこと探してばかりいるような。おそるおそるリクへ訊ねる。

「ねぇリク。どうして、そんなに私のことを探してくれるの?」

 すると、リクは不思議そうな顔をした。

「フィリアは、よくハートレスや闇の連中に狙われるだろう。側にいなくちゃ、守れないからな」

 さも当然のように答えているが、私はリクに守ってくれと頼んだことはない。

「どうして守ってくれるの。ハートレスくらいなら、私、自分で何とかできるよ。誰かに頼まれた? それとも、友だちだから?」

 更に質問されるとは思っていなかったのだろう。リクが目を丸くする。

「それとも、キーブレードマスターだから、やっかいな体質の私を守ってくれているの?」
「フィリア? どうしたんだ。何かあったのか……?」

 リクが焦った顔でのぞきこんでくる。
 自分の卑屈な部分がむき出しになってしまって、いたたまれない気持ちだった。勝手なことに、言ってほしいのだ。リクに、私のことが大事だから守ってくれているのだと。私ったら、人の好意になんて図々しいことを。

「おい、フィリア……?」
「ごめん。ちょっと、頭冷やしてくる」

 もう、どうしたらよいのかわからなくなり、リクから逃げるようにトワイライトタウンの街中へ走り出した。




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