薬を抱きしめるように持ったまま、夕焼けに輝くレイディアントガーデンの空中庭園をひとりとぼとぼ歩く。一日中、悩んで、悩んでやっぱりこんな薬を人に使うなんていけないことだと反省していた。私だって、好きでもない人にこんなものを使われたら嫌だもの。

「こんなもの、捨てなくちゃね」

 ゴミ箱はどこだっけ。そうして、ぼんやりと考えながら空中庭園から出るときだった。

「危ない!」

 急に、後ろから手を引かれた。目の前で、地面から飛び出てきたハートレスが爪を振りおろしている。パリッと音がした。痛みはない。体が後ろに引かれてゆく視界のなか、ハートレスが一閃で斬られるのが見えた。
 次の瞬間には、ぱしゃっ、と音がして、後ろから私を抱きしめているリクの顔面から薬色の液体が滴っていた。

「えっ……」

 銀色の髪先からぽたぽた垂れる液体に、サーッと血の気が引いてゆく。持っていた瓶の中身は半分以上なくなっている。

1 ハートレスが襲ってきて、私の瓶を切り裂いた。
2 リクが私を引っ張りつつ、ハートレスを倒した。
3 引っ張られた反動で、壊れた瓶から液体が零れ、リクにかかった。

 状況を理解したとたん、慌ててハンカチを取り出して、リクの顔を丹念に拭った。

「リク、ごめん。助けてくれたのに」
「いや。フィリアが無事でよかった」

 優しい声で答えてくれたリク。怒っていないみたいだけれど、問題は薬を飲んでしまったかどうか。

「フィリア、むぐ、口ばっかり拭かないでくれ」
「あっ、ごめん……」
「心配性だな。大事そうに抱えていたし、なにか特別な薬だったのか?」

 ギクッと手が止まる。

「そうじゃないんだけど……大丈夫? 気分悪くなったりとか、していない?」
「いや、特に何もない」

 髪先の雫までぬぐい取ったところで、リクがもう大丈夫だと言う。水もしたたるいい男ってこのことだろうか。夕日の中で優しく微笑むリクが美しくて思わずドキッと手が止まる。

「戻ってこないから探しに来たんだ。帰ろう」
「う、うん……」

 そうして、リクにかけてしまった薬のことを隠したまま――数日が過ぎてしまった。




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