砂漠の世界の任務から帰ってきたロクサスは、風呂場へ直行した。太陽がギラギラ照りつけるなか、黒いコートで何時間も戦ったため、すっかり汗と砂まみれである。
 疲れた。早くシャワーですっきりしたい。くたびれきったロクサスは、コートを脱いで、服を脱いだ。パンツ一丁になったところで、ふと気づく。

「あ、替えの下着忘れた……」

 タオルは持ってきていたので、見落としていた。うっかり、うっかり。
 浴室と自室まではそう遠くない。汗でべたべたな服をまた着て戻るのは面倒だ。素肌の上からコートのみを着ただけでも、上辺は繕える。

「さっさと取りに行くか……」

 そうして、浴室の扉を開いたときである。「あっ、ロクサス!」と声をかけられた。振り向けば、黒コートを持ったフィリアがこちらへ手を振っている。
 こんな時に女性の、よりによってフィリアと会うなんて、ロクサスは少しヒヤッとする。フィリアはロクサスよりちょっとだけ先輩のノーバディだ。いつもニコニコ笑い、ロクサスの面倒をよくみてくれる。
 フィリアは今日もニコーッと笑って、ロクサスの前にやってきた。

「いまからお風呂はいるところだったの? ちょうどよかった〜。黒コート、ぬいで」
「えっ」

 ギクッとして、ロクサスは思わずコートのチャックを握りしめる。フィリアはロクサスの様子に気づいていないようだ。ニコニコのまま、持っていたコートを持ち直した。

「今日、砂漠の世界に行ったんでしょ? あそこ、汗と砂だらけになるから最悪だよね。私、洗濯当番だから、そのコート洗ってあげる」
「い、いいよ。自分で洗うから」
「遠慮しなくていいよ。シグバールからも預かってきたんだから」

 フィリアが抱えているそれは、確かに本日のロクサスと一緒に任務したシグバールのコートだった。「そういえば、さっきね」と言いながら、むうっとフィリアの表情が変わる。

「シグバールったら、コートの下、裸だったんだよ。暑くて脱いじゃったところだったみたいだけど、驚いたらお腹抱えて笑ってきてさ」

 ぷんぷん怒っているフィリアに、ロクサスは硬直する。どうやって、フィリアに違和感を覚えさせずに浴室へ逃げ込めるか考えていた。

「まったく、もう。あのセクハラおじさん、すーぐからかってくるんだから! ロクサスは、シグバールのマネとかしちゃだめだからね」
「わかった……」

 ロクサスの素直さに、フィリアはまたニッコリに戻る。

「じゃあ、早くコートちょうだい。急がないと、明日までに乾かせなくなっちゃう」
「いや、えっと……」

 まずい。ロクサスはジリジリ後退する。フィリアが近寄る。

「どうしたの、コートのチャックなんて握りしめて? コートの下、何着てるの?」
「別に――ちょっ、ま……!」

 静止する間もなく、シュパン! とロクサスのコートの前は、はだけていた。フィリアの武器の鋼糸でコートのチャックが降ろされたのだ。隙間から覗くロクサスの素肌。表情の色がなくなるフィリア――。
 しばしの沈黙の後、突然、フィリアがくるっと来た道を戻りだした。ロクサスは慌てて彼女を止める。

「フィリア、待って。これには理由が――」
「ロクサス……コートは、洗濯籠に入れておいてね……」

 にぃっこり。綺麗なフィリアの笑みから発せられる殺気に、ロクサスはピィッと固まる。

「私は、ちょっとシグバールのこと殺ってくるから」

 ギチィィィ……ッ!とフィリアの糸がきつく鳴った。



 その後、存在しなかった世界では、半裸のロクサスが武器を構えたフィリアを追いかけている光景が目撃され、機関内で更なる誤解と混乱が広がるのであった。






2.3.31




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