最近、ユニオンのノルマがキツイ。
ユニオンリーダーたちがブラック企業と化し、ルクスを稼げや稼げ、稼いでこいや! 稼ぐまで帰ってくるんじゃねぇぞとメンバーたちを日夜けっとばしている。そんなクタクタのまま戦っていれば、そりゃあ事故が増えるよね。
そんな中、ついにハートレスにぺしゃんこにされそうになって、死ぬぅーー! って覚悟したあの日、颯爽と助けてくれた、白くてくるくる髪の男の子。赤いマフラーと優しい笑顔つき。
「大丈夫? 疲れてるみたいだね。しばらく俺と組まない? 助け合えば、ノルマもきっとすぐに終わるよ」
好き。
惚れないわけがないでしょ。
これって、もしかして、う、運命の人かも……!
「って思ってたのにさ〜ぁ〜」
ズコココ! 氷しか残ってないカップを、なおストローで吸い込んだ。ウェイトレスが届けてくれたアイスティーは一瞬でなくなってしまった。
「その子、誰に対してもそーだったのよ」
「そりゃあ、イケメンだね」
ブレインは、本の文字列からピクリとも視線をそらさずに本をめくっていた。
「イケメンよ! イケメンすぎる!」
カラカラ! コップを振るのに合わせて氷が鳴る。
「軽く調べただけでも、すっごい美少女にも、近所のおばちゃんにも、迷子の女の子にも、よっぱらいのおっさんまで助けてたのよ。見返りナシで」
「そりゃあ、イケメンだね」
「ねー。この時代、ルクスでももらわなきゃ、誰も助け合いなんてしないもの」
悲しいかな、殺伐としているいまの世の中、何をするにも見返りがいる。
彼はとてもきれいな善人だった。
どでっかいため息を吐く。
「私にだけだと思ったのに……」
「そりゃあ、イケメンだね。おっと」
「ちょっと、テキトーに相槌しすぎ」
「ゴメンゴメン」
絶対悪いって思ってないやつー。
あーあ。残っていた氷も奥歯でガリガリ砕く。
「アイスティー、おかわりしよっと」
「えっ? まだ俺に、そのイケメン君のことで話すことがあるの?」
やっと本から視線をちらっと一瞬離したブレイン。話が終わったのなら帰れと言わんばかりに迷惑がっているけれど私は全く気にしない。
彼、エフェメラと組んでた時を思い出し、にまにまと語る。
「でもさ〜聞いてよ〜、組んでる間も彼、すっごく優しくてさあ〜」
「っていうか、いま一緒にいないってことは、どうせフラれたんだろ?」
「あんですって?」
やば、という表情をしたあと、ペラペラ、ブレインの本が動く。
「彼の活躍のおかげで帰りの荷物がいっぱいになっちゃってね、それをまた彼が重いからって持ってくれてね」
「ふーん」
「その後だって、またケガしちゃ心配だからって、2週間も一緒に組んでくれたんだよ。その後、他の子と組みだしちゃったんだけど」
「そりゃあ、よかった」
「あのスクルドとかいう子、めちゃくちゃかわいいし、あっちが本命なのかな〜」
おかわりが届いたので、そこでアイスティーをずーーと吸い上げる。はぁうまい。
万悦していると、ブレインが「なあ」と本を閉じた。
「どうでもいい話を聞いてくれる男はイケメンに入る?」
「話を聞くより、守ってほしいわ。ノルマきつい」
「はいはい。また今度ね」
「ちょっと、本当に、ちゃんと聞いて?」
「惚れっぽい彼女を持つと苦労する話、聞く?」
「彼女だと思ってるなら、ちゃんと守ってってば!」
再びアイスティーがなくなってしまい、またズココ!と氷とコップが音をたてた。
2020.02.27
\やるやるやる〜/
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