ランブルレーシングを終えて、次のアトラクションへ向かって歩き続ける。フィリアは薔薇をあげたおかげか至極上機嫌で、会話がないのにニコニコしている。胸の奥がなんだかこそばゆい感じがするが、嫌じゃない。

「ロクサス、次はあそこだよ!」

 フィリアが前を指差して小走りに駆け出す。その先にあるのは黄で縁どられた赤文字でFRUTSCATTER≠ニ書かれた垂れ幕。

「フルーツスキャッター?」
「そう! ロクサス、はやくはやわあっ!?」

 こっちに向かって手を振りながら走っていたせいで、フィリアは足をつんのめさせたあと、ずべしゃと転んだ。

「フィリア、だいじょうぶか?」
「……ダイジョブ……」

 先ほどの幸せオーラはどこへやら。機関のコートと手袋のおかげで擦り傷などはないようだが、少ししゅんとしてしまった。

「怪我はない?」
「何をしている」

 フィリアの後ろからぬっと現れたのは、逆光だと怖さ六割り増しになるサイクスだった。地面にへたりこんでいたフィリアを見て、迫力がさらに二割増となる。

「転んだのか」
「あ、うん……」
「ロクサス。何をしていた」
「え、と……」
「完璧に守れと言ったはずだ。休暇中だからといって気を抜くな」

 凄みのある目つきで睨まれて言葉につまる。守れなかったのは悪かったけれど、よりによってこの瞬間、フィリアのことに人一倍敏感なサイクスに見つかってしまうなんてついてない。

「よく見せてみろ」

 サイクスの顔が近づいてきて、フィリアはいやそうに首を振った。

「いいよ、大したことないから」
「おーい、何してんだよ」

 サイクスがフィリアを引っ張り上げたとき、アクセルもやってきた。頼りになる親友は、ひと目で状況を把握したようだった。

「あ? 転んだのか? ドジだなー、おまえ。どっか痛むか?」
「ううん。平気」
「なら、さっさと始めようぜ。あいつらも待ってるしよ」
「…………」

 ほらほら、と強めに促されて、サイクスもしぶしぶながらフィリアから手を離した。



 気まずい沈黙は短かった。すぐにレクセウスとゼクシオンが待っていた場所に着いたからだ。客席に囲まれたその場所は、線を引かれた地面と、両端に妙な網が設置されているところが気になった。

「遅いですよ」

 開口一番、ゼクシオンの咎めが飛んでくる。レクセウスはそのとなりでむすっと腕を組んでいた。

「待たせてごめんね、すぐに始めちゃうから」

 フィリアが走ろうとして、またサイクスに走るなと怒られる。別にここ、廊下じゃないのに。
 サイクスを刺激しないようギクシャク歩いて、フィリアは俺たちの前に立った。

「それじゃあ、これからフルーツスキャッターの説明をはじめます!」
「おー、頼むわ」

 無反応が多い中、隣に立っていたアクセルがフィリアに相槌を返してやりながら腕を組んだ。

「フルーツスキャッターっていうのは、簡単に説明すると、相手のゴールにフルーツボールを打ち込んで得点を競うゲームです」
「フルーツボールって何? 見当たらないけれど」
「えっとね……」

 フィリアがコートにあった、ビヨンビヨンと揺れてる機械を指差した。

「その装置から自動でコート内に投げ込まれる仕組みになってるの。ボールはそれぞれいろんな特性があるから、見極めて使ってね」
「絶対に守らなければならないルールはありますか?」

 ゼクシオンが小さく手を挙げて質問する。お行儀が良い、という印象を受けた。

「ええと……線を越えないことかな」
「わかりました。それ以外だったら、何をしても許されると」
「あっ、あと備品を壊すのもダメだよ。弁償しなきゃいけないから。備品を壊したら問答無用で失格です!」
「僕は、そんなヘマはしません」

 僕は≠フところにアクセントをおいて、ゼクシオンはチラリとサイクスの方を見た。その視線に気づいているのかいないのか、サイクスはムッツリ黙りこんでいる。

「それで、優勝者に贈る賞品は……じゃじゃーん! これです!」

 よっこいせ、とフィリアは大きくて四角いものを取り出した。

「ノーバディマーク付き、最新型ノートパソコン〜!」

 「ふーん、別にいらないな」と思ったのは、たぶん俺とアクセルとレクセウス。一方で、サイクスとゼクシオンの目の色がギラッと変わった。

「オイオイ、ゲームの賞品にしては、すっげー豪華なモンじゃねーか」
「ゼムナスにお願いしたら、最近買ったばかりだけど賞品にしてもいいって」
「マジかよ。すげー」
「少々、甘やかしすぎな気もするが……」

 直接訴えることをしないレクセウスが唸った。
 こんな話を聞くたびに、アクセルがゼムナスはロリコンってやつなんじゃないかって冗談めかして言っていた。でも、シオンには特別甘やかしているって話は聞かない。
 ゼクシオンがサイクスを見やる。

「成程……だからこんな休暇をあっさり許可したのですね」
「なんの話だ」

 サイクスは目を閉じ、ゼクシオンの方を見ないようにしていた。

「チームは二人一組で行います。組み合わせは……」
「僕はレクセウスと組みます」

 有無を言わさぬ様子で、ゼクシオンはさっさとレクセウスと行ってしまう。残るは俺とアクセルとサイクスで、一人余る。当然俺はアクセルと組もうと思ったのだが――。

「アクセル、俺と……」
「行くぞ。アクセル」
「あー……えっと」

 俺とサイクスに挟まれたアクセルは、薄ら笑いに冷や汗を流して頭をかいた。

「どうした。さっさと来い」
「俺と組むよな、アクセル?」

 アクセルに話しかけながら、サイクスと睨み合う。互いに、相手とだけは組む気はなかった。だいたいなんだよ、俺とアクセルは親友なのに。
 しばらくそんな状態が続いたが、フィリアのひとことで話が進んだ。

「あ、ごめんね。ロクサスは一人チームだよ」
「えっ!? なんで俺だけ一人なんだ!?」

 フィリアがさも当然のように、ニッコリ言う。

「ロクサスは特別だから」
「え……えぇぇ!?」
「さ、試合を始めよう。ロクサス、早くコートに入って!」

 もうすでにコートの中で、ゼクシオンとレクセウスが待っている。ほらほらとフィリアに背を押されて、もう片方のコートの中に立たされた。
 頭脳明晰なゼクシオンに、機関でもトップクラスに屈強な肉体をもつレクセウス。見事にバランスの良い組み合わせで強敵だ。なんとか隙を見つけられなければ、あっという間に負けてしまうに違いない。

「それじゃあ、第一試合……開始!」

 アクセルをサイクスに取られて面白くない気持ちのまま、キーブレードを握った。


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