「ビビディ・バビディ・ブー!」
「わっ!?」
「何だ!?」

 聞き覚えのある掛け声と同時に、どこからか流れてきた銀白の光に包まれた漆黒のメイド服が、金色のドレスに変わってゆく。

「ドレスだあ……!」

 あまりの感動に、半泣き声になってしまった。キラキラでトロトロな布質で作られたドレスは、動くたびに星を散りばめたかのように輝く。緩んでいたヴァニタスの腕から抜け出して、スカートを幾度もひらめかせる。

「よく似合ってる」
「ヴェン!」

 声の主を探せば、いつの間にかバルコニー側にヴェンが立っていた。

「いままでどこへ行っていたの? 私、とっても探したんだよ」
「おばあさんを探していたんだよ。今度こそフィリアの服をドレスにしてって頼みたくて」

 私の質問に答えながら、ヴェンがこちらへやってくる。

「そうだったんだ。でも、おばあさんは?」
「もう行っちゃったよ。気を利かせてくれたみたい」
「お礼、言いたかったのに」
「俺から言っておいたからだいじょうぶ」

 そこで優しいヴェンの微笑みが、ヴァニタスへ向くなり冷たく変わる。ヴァニタスもヴェンと同じ温度の目つきになった。

「まさか、ヴァニタスも来てるなんて思わなかったよ」
「フン」
「それで? さっき、フィリアに何しようとしてたんだ?」
「俺はおまえだ。答える必要なんてないだろう?」

 ミシリと空気がきしむ音が聞こえた気がした。
 直感が告げる。このままでは城が壊れることになる。

「あの、二人とも、せっかくの舞踏会なんだし、喧嘩しないで……」
「目の前からヴァニタスがいなくなればしないよ」
「なら、さっさとおまえが消えるんだな」

 しばしの沈黙――そして、同時に呼び出されるキーブレード。

「ヴェントゥス! ヴァニタス!」

 とっさに、二人の前に飛び出した。ヴァニタスを背に隠し両手を広げた私を見て、ヴェンがあからさまにむっとする。

「フィリア、止めないで」
「だめ。ヴェン、おねがいだから」
「どうして、そいつばっかりっ……!」

 ヴェンにまっすぐ怒りの感情を向けられ、怯んでしまった。

「フィリアは俺とヴァニタス、どっちを選ぶんだよ!?」

 いつもと違う悲痛な声を聞いたとき、何も考えられなかった。悲しげに曇る表情。気持ちもまっすぐに伝わってきて、心を揺さぶられる。
 ヴェンと、ヴァニタス。どっちを選ぶって――だって、二人は。

「おい!」

 ヴァニタスがヴェンに怒鳴り、ヴェンが気まずそうに横を向いた。
 まるで、雷に打たれたような気持ちだった。どちらかを選ばなければ不誠実になるのだろうか。いや、すでにこの考え自体、侮辱していることになるのだろうか。

「あ……フィリア!」

 わからなくなってしまって、どうしようもできなくて、その場から逃げ出した。


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