「ランブルレーシングの優勝者は、ロクサスです!」
レースの余韻でフラフラしながらフィリアが全員に宣言する。あのあとゼムナスのマシンは柵を突き破りコースアウトしたので、俺以外、全員失格となった。
大きなたんこぶに忌々しそうな顔をしたザルディン、焦げているが優雅な表情のマールーシャ、草まみれになりながらも無表情であるゼムナスからの拍手は心がこもってないだけあり、まばらだった。
「ロクサスには、優勝賞品である『とある世界の野獣さんがとっても大切にしているバラのレプリカ』をプレゼントします!」
「え、本物じゃないの?」
思わず訊くと、フィリアは「当然」という顔をした。
「本物だったら、野獣さんが困っちゃうでしょ?」
それはそうだけど。あっちでザルディンがすごい顔になってるぞ。
「ロクサス、優勝おめでとう!」
「ありがとう」
にこーとした笑顔でフィリアがバラを渡してくる。嬉しいが、もらってもどうしてよいかわからない。まぁ、記念として部屋に飾っておこうかな。
「…………」
受け取った途端、ゾッと背筋が冷たくなった。――殺気。欲しがっていたザルディンやマールーシャからかと思えば、ゼムナスからだ。今更負けた恨みとかではなさそうだけれども……あ。
「フィリア」
「ん?」
「これ、受け取ってくれないか?」
言いながら、俺はバラをフィリアに差し出した。
「それは、ロクサスが頑張った証だよ」
「フィリアも欲しいって言ってただろ? 贈りたいんだ」
きっとゼムナスはこうしたかったんだろうし、フィリアの部屋に飾ってもらえれば、会いにいく理由にもなる。
フィリアは少しの間迷っていたが、やがてひとつ頷いて両手を差し出した。
「ありがとう。ロクサス」
ゼムナスからの視線攻撃が止む。背中の汗が引くようだ。深く息を吐き出すと、フィリアが満面の笑みで俺を見た。
「大切にするね」
「……うん」
優勝賞品は、フィリアのこの笑顔ってことで――いっか。
To be continue...
2012.5.12
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