広間のステンドグラスが光に透けて、床に美しい模様を映している。本日は晴天。フィリアは広間の隅で床に座り、テラとアクアが修行をしている姿を眺めていた。

「つまらない……」

 二人に聞こえない声量でポツリと呟く。
 “キーブレードに選ばれし者”ではない自分は修行に参加することをエラクゥスに認められていない。許されていたことは、テラとアクアの修行の見学と回復魔法であるケアルの習得のみ。
 二人のキーブレードが音を立てる。こんなに気持ちよく晴れている日は外へ遊びに行きたかった。しかしテラとアクアの午前の予定は室内で修行と決まっている。

「フィリア、外に遊びに行ってきていいんだぞ?」
「えっ?」
「つまらないって顔してるよ」

 声をかけられ顔を上げるとテラとアクアが苦笑していた。……そう、とてもつまらない。なのになぜ自分がここにいるのか。その理由は二人とも知っているのに。
 フィリアは頬を膨らませた。

「ひとりで遊んだってつまらないよ。ねぇ、私も二人と一緒に修行したい!」
「だめだ」
「フィリアはマスターのお許しがなければだめよ」

 すぐに却下され、フィリアはがっかりと俯いた。エラクゥスは何度頼みこんでも決して修行の参加を認めてはくれないのだ。
 後頭部に温かいものが触れる。この感触はテラの手だ。

「フィリアはいいんだよ。こういうのは俺たちの使命だからな」

 その“俺たち”に自分は含まれていない。エラクゥスたちとはかなりの年月をこの地で共に暮らしてきた。大切な家族だと思っている。しかしキーブレードのことに関してだけは、どうしても強い疎外感を感じていた。
 フィリアが更にしょぼくれると、アクアが屈んでフィリアの顔を覗きこんだ。

「ほら、拗ねないの。あとでケアルのコツを教えてあげるから。ね?」
「…………うん」

 しぶしぶとフィリアが頷いたとき、出入り口の扉が開く音がした――来客だ。
 ここを訪れる者は滅多に来ない。めずらしさからフィリアはテラとアクアと一緒に二階から入り口を覗き見た。
 まぶしい光の中から現れたのは知らない老人と少年の二人組。エラクゥスが出迎えているが、彼の知り合いなのだろうか?





★ ★ ★





 もう、ここに来る気はなかった。
 ゼアノートは、石床に踵の音を響かせる。急な訪問にエラクゥスが驚いた顔で自分たちを出迎えた。以前にはなかった傷跡が右目と左頬に刻まれている。いきなりエラクゥスに斬りつけられる可能性も考えていたが、そういうことはなさそうだ。
 エラクゥスが、いつかのように笑って言った。

「ゼアノート……! 久しぶりだな。よく来てくれた」
「ああ。エラクゥス、今日はおまえに頼みがあってきたのだ」

 ゼアノートが瞳だけでヴェントゥスの方を見やると、エラクゥスもヴェントゥスの方を見た。そして気づいたようにハッと息を呑むと、ゼアノートに視線を戻して頷いた。

「詳しい話は奥で聞こう」
「ああ。お前はここで待っていなさい」

 ヴェントゥスをその場に残し、ゼアノートはエラクゥスに続いて階段へと歩き出した。




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