フィリアたちは古びた石畳の町を歩いていた。
 石を切り積んで作られた建物にガラスのない窓。すれ違う人々は皆、布を巻きつけたような服装をしており、さながら神話のような世界である。

「ヴェン、見て」
「ん?」

 目の前に見える、大きな像を指した。隆々な筋肉を誇る戦士の銅像だ。

「“もう少しでヒーローになれそうだった男の像”だって。この世界にはヒーローがいるのかな?」
「ヒーローか……会ってみたいな」
「探してみない?」
「ああ!」

 頷きあって歩き始めようとしたそのとき、小さな中年男が走ってきた。頭からは角を生やし、下半身はまるまるヤギと同じという変わった姿だ。ずいぶんと走ってきたのか、男は銅像の前でフラフラと立ち止まり、荒い息を繰り返した。

「まったく、あの小僧、しつこい……」
「おじさん、何してるの?」
「うわーっ!?」
「きゃっ」

 ヴェントゥスが声をかけると、男は飛び上がるような悲鳴をあげた。それにこちらも驚くと、彼は怒鳴りながらこちらを振り向く。

「だから、俺は二人もコーチできんと言ってるだろーが……って」

 顔を見るなり、男は急激に冷静を取り戻し「なんだ」とつまらなそうに手を払った。

「別の小僧か。お嬢ちゃん、驚かせてすまなかったな」
「あ、いえ……」
「悪いが俺は忙しいんだ。あっちへ行って……」
「フィルー!」

 男の話の途中で、少年の声がする。広場の入口に目を向けると、白い衣を纏い、無邪気な瞳をきらきらさせている少年がこちらへ走り寄ってきていた。おろおろする男の様子から察するに、彼がそのフィルだろう。

「エントリー終わったよー! おーい!!」
「ハーク! わかった、わかったからもっと小さな声で――
「いたー!」

 そこでまた若い声がして、フィルの背後にある通路から、鉄兜で顔を覆った青年が現れた。鎧のような肩当てに長い剣を背負っていて、まるで兵士のような格好をしている。
 新たに現れた彼を見て、フィルがハークを睨みつける。

「ほら見ろ! 見つかったじゃないか!」

 どうやら、フィルはこの青年から逃げていたらしい。青年はそんなやりとりには構わずに、フィルに話しかけた。

「町の人にも聞いた。あんた、やっぱり英雄専門のトレーナーなんだろ?」
「ヒーローだ!」

 フィルが苛立った声で訂正する。

「英雄?」
「ヒーロー?」

 すっかり傍観していたが、気になる単語に胸を踊らせながらヴェントゥスと顔を見合わせる。

「どっちでもいいよ! あんたの力が必要なんだ。俺は英雄になりたいんだ!」

 青年がフィルに頼みこむも、フィルは迷惑そうに言い捨てた。

「さっきも言ったはずだ。答えは二言! 同時に、二人も、面倒みきれん!」
「二言だった?」
「……えーっと」

 数の不自然にヴェントゥスと指を折りながら数えてみるが、やはり合わない……。
 そんなこちらには構わずに、フィルはハークを指し、青年に言った。

「俺はこいつのコーチで手一杯だ! さぁ行くぞ」
「そこを何とか頼むよー!」

 青年を無視してフィルたちは歩み続けた。しかし、いくらも進まないうちに、二人の目の前にアンヴァースが現れる。

「アンヴァース!」

 もはや慣れたもので、すぐにヴェントゥスと戦闘態勢に入った。フラッドやスクラッパーなど普段から見慣れたアンヴァースから、クラゲのようなものと鎧を着たものなど、初めて見る姿が混じっている。

「モンスターか!」

 青年が、張り切って背中の剣をスラリと抜く。

「フィル、俺の実力を見てから決めてくれよな!」
「僕だって……!」

 少年も拳を握り、アンヴァースに向かっていった。




原作沿い目次 / トップページ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -