「ディズニータウンへようこそ!」

 カラフルな旗と風船に飾られたゲートを潜ると、あちこちから陽気な歌声や賑やかな音楽が聞こえてくる。浮き立つ雰囲気に、ヴェントゥスたちは瞳を輝かせた。

「あのおじさんの言ってたとおり、とっても面白そうなところだね!」
「ああ」

 満面の笑みのフィリアに頷いて、早速この世界を冒険する。こんなに愉快な世界は初めてで、こちらも自然と笑顔になる。
 しばらく道なりに歩いてゆくと、メイン会場と呼ばれる広場に辿り着いた。奥にステージがあり、店も多い。いったいどんな場所なのか――期待に胸を躍らせたとき、いきなり目の前に何かが落ちてきた。

「だーっ!」
「ひゃあ!」
「うわあ!?」

 大きな声を上げながら現れたソレは、真っ赤なマントを身につけた、自分たちより数倍大きな体の男だった。顔の上半分をマスクで覆い隠し、白を基調としたヘンテコな衣装を身にまとっている。
 いきなりの登場にあっけに囚われていると、男はこちらを振り向いて、のしのしと歩いてきた。

「そこの少年、少女。何か困りごとはないか?」
「え、俺たち?」

 左右を向くと、側にいた人たちがササッといなくなる。
 男は太い腕を振り上げて、何やらポーズをとり始めた。

「白いマスクは希望のしるし! この町の平和を守る正義のヒーロー、キャプテン・ジャスティス参上!」
「キャプテン・ジャスティス?」

 フィリアが首を傾けながら復唱する。気がつけば、人混みの中なのに、自分たちと男だけ避けられるように孤立していた。
 気付いていないのか、男は胸をえっへんと張る。

「そうだ。さぁ、困りごとはこのキャプテン・ジャスティスが解決してやるぞ!」

 困りごと、か――

「俺は友達を……いや、特に困ったことはないよ」
「うん? 遠慮はいらんぞ。さぁ言ってみろ。それで俺に投票を……」
「投票?」
「い、いやいやなんでもない! さぁ、何か言うまでここを動かんぞ!」
「そんな……困ります」
「なにっ、この俺さまが困らせているだとぅ!?」
「きゃっ」

 フィリアに向かって、男がプンスカ怒り出した。どうやら、かなり短気な性格らしい。

「うーん……そうだ、この町のことを教えて」
「へ? この町のことだと?」

 思いつきで質問すると、キャプテン・ジャスティスがきょとんと訊ね返してくる。

「うん。ずいぶん楽しそうな雰囲気だけど、いつもこうなの?」
「何だ、そんなことか。今、この町はドリーム・フェスティバルの真っ最中だ。町のあちこちでいろんな催し物が行われているぞ」
「催し物!?」
「どんなものがあるんですか?」

 お祭りなんて初めてだ。ワクワクして訊ねると、キャプテン・ジャスティスは太い腕を組み言った。

「それは自分たちの目で確かめるんだ。それがドリーム・フェスティバルの楽しみ方だ」
「わかった。ありがとう」
「助かりました。えぇと……」
「少年たちの困ったを解決したのは“キャプテン・ジャスティス”だからな。忘れるなよ!」
「う、うん」
「はい」
「あー、どうしよう。このままじゃ店を開けられないよ」
「どうした!? 俺に任せろ!」

 会場のどこかから困った叫びが聞こえてくる。次なる困った者を救うため、キャプテン・ジャスティスは人混みの中に消えていった。

「いったい、何だったんだろう?」
「変わった格好をしていたし、仮装大会があるのかもね?」

 気を取り直して、フィリアと再び人の波に従って歩いてゆく。すると、数分もしないところで、またあのキャプテン・ジャスティスの姿が見えた。どうやら、先ほどの“困った”はまだ解決していない上に揉めてしまっているようだ。

「どうかしたの?」
「ん? なんだ、先ほどこのキャプテン・ジャスティスが助けてやった少年たちか。少し待っててくれ。今、親友のヒューイ、デューイ、ルーイの事件に対応中だ」
「そんな、事件だなんておおげさです」

 ドレスを着た女性が、キャプテン・ジャスティスに困り顔を向ける。

「そうだよ!僕たちはアイスクリームが上手くできなくて」
「困ってただけなんだ!」
「たいしたことないよ!」

 ヒューイたちも口々にキャプテン・ジャスティスに説明するが、キャプテン・ジャスティスはパチパチと目を瞬かせる。

「だから、何者かの営業妨害を受けているんだろう?」
「違うってば!」
「そんなんじゃないってば!」
「この機械だよ」

 ヒューイたちがいっせいに側にあった装置を見た。つられるように、ヴェントゥスたちもそれを見る。

「楽器がたくさんついてる」
「大砲まであるぞ……?」

 見入るように、フィリアと機械を観察した。座席の両側に鍵盤が取り付けられ、中央には大砲の筒――アイスクリームの機械にはとても見えない、なんともヘンテコな形だった。

「スクルージおじさんが置いていってくれたんだけど、操作がとっても難しいんだ」
「せっかくミニー王妃に、最初のアイスクリームを食べてもらおうと思ったのに……」
「いいのよ。そのお気持ちだけで嬉しいわ」

 しょんぼり俯くヒューイたちに、ミニー王妃が優しく言う。

「でも――
「要するに、こいつでアイスクリームを作ればいいんだな?」

 結論に辿り着き、キャプテン・ジャスティスの大きな手が機械に触れた。

「やめてよ! ピートなんかにできないってば!」
「キャプテン・ジャスティスだ!!」

 キャプテン・ジャスティスは嫌がるアヒルたちに怒鳴りつけると、無理やり機械をいじり始めた。




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