THE 1st DAY



 起動を確認――正常。

「調子はどうだ、フィリア?」
「おはようございます。ディズ様。システムチェック完了。正常です。起動後604800秒でソラの記憶回復が完了します」
「よろしい。では開始せよ。細かい指示は随時こちらからだす」
「かしこまりました」

 画面に映っていた少女が慇懃にうなずくのに合わせプツンと通信がきれる。真っ暗な画面に数字が並ぶ画像に変わった後、ディズはしばらくキーボードを叩いていたが、ふと指を止めて意識をこちらに向けてきた。

「彼女が気になるかね?」
「ああ。なぜフィリアがあそこにいる?」
「彼女はロクサスとソラ、どちらとも深く繋がりがある。フィリアを見るたび、ロクサスはソラを意識する」

 繋がりを利用して効率化を図る。ディズは低く笑った。

「奴らは血眼になってロクサスとフィリアを探しているだろう。七日間、この環境を守り続けなければ」

 そうして始まった記憶の回復だが、3時間とたたず警告音が鳴り、再びフィリアが画面に現れた。ディズがキーボードをたたき始める。

「ディズ様。8秒前に外部システムの侵入を確認しました」
「そうか」

 フィリアの顔が写っていた画面が数字とアルファベットの羅列に変わる。

「ノーバディが相手なら、俺が行こう」
「いや、この程度ならまだフィリアだけで対処可能だ。ハッキングの相手が判明するまでは待ちたまえ」

 しばらく様子見していると、ロクサスの前に下級ノーバディであるダスクの姿が現れた。ダスクはデータのキーブレードを持たされたロクサスによって葬られ、写真データを吐き出して消える。

「]V機関め。ここを見つけたようだ」
「しかし、ノーバディはなぜ写真を盗んだんだ?」
「どちらも単なるデータだ。やつらには区別できなかったのだろう。さあ、あまり時間がないぞ。ナミネを急がせるか」

 ロクサスの自由行動時間を終了し、夢による回復時間へ切り替えになる。無事に部屋へ戻ったロクサスがベッドで眠る映像を眺めて、ディズは小さくため息を吐いた。別の画面には次々とダスクが侵入しはじめており、片っ端からフィリアが始末してまわっている。




★ ★ ★





 呼ばれている。すぐに向かうと、ナミネのアバターが民家の屋上に立っていた。
 視線が合う前に彼女へ頭をさげる。

「ナミネ様」
「ナミネでいいよ」
「しかし、あなたもユーザーです」
「そう呼んでほしいの。おねがい」

 その命令はナミネの権限の範囲内のため、設定を変更する。

「かしこまりました」
「敬語もなし。ロクサスたちと話すように話してほしいな」

 その命令はナミネの権限の範囲内のため、設定を変更する。

「かしこまりました。じゃあ、敬語を使わないように話すね」
「ありがとう」

 うれしそうに微笑む彼女へ疑問がわく。ナミネはフィリアの友人ではないのに、どうしてそんな無意味な命令をするのだろう。
 いや、ユーザーの命令には従うのみ。
 ナミネはトワイライトタウンの街並みを楽しそうに見下ろしている。

「ロクサスのおかげで、止まっていた彼の記憶が動き始めたの」
「うん。現在、回復は12%完了したよ。あと520496秒かかるよ」

 するとナミネが苦笑したため、適切な回答ではなかったかと首をかしげる。

「ソラが目覚めるとき、ロクサスをソラに還さなくちゃいけない」
「うん、そうだね」
「けれど、それはロクサス……彼はきっと望まない」

 そう言って、ナミネがうつむいた。
 システムが順調に稼働することはユーザーたちの望みのはずなのに、なぜか彼女は悲しんでいる。慰めるべきだろうか。ディズに与えられた知識をフル稼働する。

「ロクサスの望みを考えて落ち込む必要はないよ。だって、ノーバディであるロクサスを元の存在であるソラへ戻すことは、彼を救うことでもあるんだから」

 ノーバディ―はいつか突然消えてしまうような不安定な存在だ。だからこれはソラとロクサス両名を救う素晴らしいシステムなのだ。
 きちんと答えたのに、ナミネは寂しそうに笑った。

「フィリアはロクサスのこと、どう思うの?」
「ソラを目覚めさせるために必要。ノーバディ。ディズ様より絶対に守り抜くよう言われている」
「じゃあ、私のことは?」
「ユーザー登録者のひとり。ソラを目覚めさせるために必要。ノーバディ」
「……そうだね」

 するとナミネが近寄ってきて、両手を包むように握ってきた。

「私ね、フィリアと友達になりたいの」
「えっ?」
 
 意味不明かつ理解不能。エラーを起こしそうになり、しばらくポカンと彼女を見つめた。




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