目を開くと鎧が身体を包んでいた。ふわりふわりと浮かぶ感覚。いつの間にか異空の回廊を漂っていたようだ。
彼の持っていた星のカケラの力の影響だと、フィリアはぼんやりと理解する。正面にあった知らない世界が輝いた。ここは光の力の気配が強い。どことなく、旅立ちの地に似ている気がした。
「フィリア」
声と共に片手がそっと掴まれる。同じように鎧に身を包んだヴェントゥスがキーブレードに乗っていた。引かれるままに身を任せ、その隣に足を着ける。
「行こう」
「……うん」
フィリアたちはその光に吸い込まれてゆくように、その世界へ降り立った。
噴水と花壇に囲まれた広場。足元で星が鳴った。
「あっ!」
音に気づきフィリアは慌ててそれを拾う。光に黄色の影を落とす繋がりのお守りだった。いつもしまっているはずのポケットを確認すると、焦げて小さな穴が開いている。ここから滑り落ちてしまったのだろう。
「よかったぁ……壊れてない」
大部分がガラスであるお守りは見た目の割に頑丈に作られているようだ。固い石畳の上に落ちたのに傷ひとつついていなかった。
ポケットの内から指先を覗かせていると、ヴェントゥスがあーと声を出す。
「フィリアの服、替えないといけないな」
「そうだね。残念だけど……」
黒くなった服裾を摘みながら頷いた。故郷から着てきた服を諦めるのは悲しかったが、焦げ跡はどうやったって直せない。
「じゃあ、まずは服の、あれ……」
「どうしたの?」
広場から続く道をぐるりと見渡していたヴェントゥスが、ある一点を凝視する。フィリアもそちらの方向を見ると、先の世界で会った彼の後姿が街角へ消えてゆくのがチラリと見えた。
こんなに早くにまた会えるなんて。
フィリアたちは顔を見合わせ頷いて、彼の後を追いかけはじめた。
★ ★ ★
エントランスから抜け出たテラは、大きな広場へやってきた。
住民の憩いの場として整えられている広場には、今は誰もいないようだ。とりあえず適当に歩きながら、荒野で再会したゼアノートから聞いた話を思い出す。
ヴァニタス――。
ヴェントゥスの心から取り除かれた純粋な闇の存在。光に惹かれ、傷つけるもの。放っておけば、いずれヴェントゥスとアクア、そしてフィリアを襲うだろう。自然と拳に力が入る。そんなことは許さない。世界も友も、自分が必ず守ってみせる。
広場の中央から水が流れる音が聞こえてきた。どうやら噴水があるようだ。
すでにゼアノートの無事は確認した。あとは世界じゅうにアンヴァースをばら撒いているヴァニタスを討ちさえすれば、エラクゥスに命じられた任務も完了する。帰郷したら、今度こそエラクゥスにマスターの称号を認めてもらえるかもしれない。もしマスターになれたなら……真っ先に、あの過ちを正しに行こう。
緩やかな斜面を下ろうとしたとき、地面から魔物が現れた。
「アンヴァース!」
反射的にキーブレードを召喚する。キーブレードに反応したのか、魔物たちがいっせいにこちらを向いた。
「やはり、マスター・ゼアノートの読みは正しかった!」
ヴァニタスがここに来た。もしまだ留まっているならば、探し出して必ず倒す。
油断なく周囲に目を配りながら、テラは魔物に斬りかかった。
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