「――きれい……」

 果てまで続く青空と白雲。下に広がる水面が鏡となって、青いビー玉に閉じ込められたみたい。白を基調とした建物とのコントラストが美しく、心地よい風によって街のあちこちに飾られた風車が回っている。静かで穏やかな世界。
 エラクゥスから教えてもらったスカラアドカエルムという名のこの世界は、古から続く歴史と厳かで神聖な雰囲気を感じる場所だった。

「ゼアノートも、少し前に外の世界からやって来たんだ。だからフィリアは二人目だな」
「そうなの……」

 ここには住民がほんのわずかしかおらず、だから新しく現れた者は外の世界から来たとすぐに分かるらしい。外の世界を知っているこの人たちのことを教えたら、ドナルドはどんな顔をするだろう。

「エラクゥス。俺のことは自分で話す」
「そう?」

 度々ゼアノートからツッコミを受けるエラクゥスは、やはりソラによく似ていた。明るくて人懐こくて、親切でちょっとお調子者で──まるで太陽みたいに笑う人。
 一方、ゼアノートは月のように冷静で、真面目な人。エラクゥスのように騒ぎ立てるタイプでは無いのに、無視できない存在感のある人物だった。彼は突然現れた自分のことを警戒しているのだろうか? 常に彼の視線を肌に感じる。静かな水面かと思いきや、奥で焔が燃えているような瞳と見つめ合うのがちょっと怖くて、あまり視線を合わせることができていない。

「あっ、いたいた。おーい、みんな!」

 ちょっとした広場についたとき、初めて他の住民たちを見つけた。男女合わせて五人の集団に向かってエラクゥスが手を振ると、呼びかけに気づいた者順に反応が返ってくる。

「エラクゥス、その子は?」

 鮮やかな翠眼が印象的な、一番身長が小さい女の子(とはいっても、自分とは大差ない)が、見た目の印象と違わず可愛らしい声でエラクゥスに訊ねた。彼女のくるんくるんと外跳ねしている髪が動きに合わせ揺れている。

「見ない顔だな?」

 明るい橙色の髪と瞳をした少年がしげしげと見てくる。彼の上着についているファーがふわふわしている。触ってみたい。

「まさか、ゼアノートと同じ?」

 長い銀髪を一つにくくっている、背が高くて利発そうな女の子が口をパカッと開き、

「外の世界から来たのか」

 柔らかそうな青い髪が印象的で、この中で一番背が高い男の子が目を丸くしていた。

「教室でゼアノートと勝負してたら会ったんだ!」

 エラクゥスがジャーンと言わんばかりに一歩こちらから離れてしまう。この場の全員から興味深々に注目されて、恥ずかしくなり頬が熱くなった。これまでは仲間と一緒だったけど、今はひとりで自己紹介しなければならない。
 年上ばかりに囲まれて、なんだか緊張してしまい、えっと、えっと、と言葉を探す。すると、ふわっといい香りが側に来た。

「そんなに緊張しなくていいよ」

 ひとりの少年がこちらの目線までしゃがみこみ、優しい微笑みと共に挨拶してくれた。

「俺はバルドル。よろしく」

 陽の光にきらきら輝く白い髪、透き通る白い肌に、淡い色の瞳の美しい少年。まるで、いつか本の挿絵で見た────

「天使みたい……」
「えっ、天使? 俺が?」

 バルドルはキョトンと瞬きしたあと、困り笑いになってしまった。男性の褒め言葉ではない表現だったかも。
 周囲の子が「バルドルが天使だって!」とか「からかってやるなよ」とか「似合う、似合う」「おいおい……」など少しざわめいた。
 どうしよう。あっ、自己紹介しなきゃいけなかったんだ。

「はじめまして。フィリアです」

 ぺこり一礼すると、みんな気さくに「よろしく」と返してくれた。翠瞳はヴェル、橙髪はブラギ、銀髪女子はウルド、青髪はヘルモーズ。全員の名前を必死で覚えた。

「ねえ、フィリアもゼアノートみたいに今日からここで一緒に暮らすの?」

 ヴェルからキラキラな瞳で訊ねられて返事に困った。カードの世界はソラの記憶の世界で、必ずゴールがあった。でもこれは違う仕掛けで迷い込んだ世界。ちゃんと終わるだろうか。入口だった教室の扉は、この世界の廊下へ繋がっていた。

「ヴェル。自分より小さい子が来て喜んでるな」
「えへへ」
「でも、フィリアのほうが大人しいぶん年上に見えない?」
「え〜〜!」

 ヘルモーズとウルドにからかわれて、ヴェルの表情が笑顔や不安にコロコロ変わっている。

「エラクゥス。そろそろマスター・ウォーデンの瞑想の時間が終わるぞ」

 ゼアノートに声をかけられ、エラクゥスが「あ!」と大声をだした。

「よし、フィリア。塔の入口に行こう!」

 ここで暮らしてゆくには、マスター・ウォーデンに会わなくてはならないらしい。他のみんなも付き添ってくれるみたいで、七人もの人数で、ぞろぞろと街の中央にある塔へ向かって歩き始めることになった。




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