陽光が届かず薄暗く、頬に当たる風は生ぬるい。不気味に静まり返った街道からはあちこちから何かが蠢く音がする。ここはハロウィンタウン──。
 不気味な雰囲気にガクガク足が震えてしまう。ろくに前を見て歩くことすらままならないので、ソラの片腕にぴったりくっついてあまり周囲を見ないように進んでいた。
 フランケンシュタインのごとく頭に大きなネジを生やしたグーフィーが、オオカミのように鋭い爪で頬をポリポリかいて呟く。

「おりる前から思ってたけど、なんだかブキミなところだねぇ……こんなところに住んでいるのは、やっぱりブキミな連中なのかな?」

 それに対し、自信満々に包帯の隙間から覗く透明の胸をムンと張るドナルド。

「平気平気! 僕たちもブキミなかっこうをしてるんだから──相手だって僕たちを怖がるに決まってるさ!」
「そうかなァ……」
「まぁ、フィリアには効果抜群みたいだけど」

 バンパイアらしく牙と羽根のついた衣装、小悪魔のお面をつけたソラが困り笑顔でこちらを見てくる。

「う……みんなのことはちょっと怖いけど、まだ平気。でも、この街の雰囲気がなんだか不気味で、キャアッ!」

 足元側を大きな蜘蛛が通ったので飛び上がった。ドナルドがかけてくれた魔法で生えた猫耳は魔女帽子の鍔にぺったりはりつき、しっぽは足の隙間で丸まっていた。

「フィリア。そんなに怖いならグミシップで待ってる?」

 ソラの思いやりの提案だと分かっていても、今は見放される危機にしか感じられなかった。必死に首を横に振り、ソラの腕ではなく体にしがみつく。

「やだやだやだ。おねがい、こんなところに置いてかないで!」
「わ、わかった! わかったけど、このままじゃ俺、今ハートレスが現れても戦えないよ……」
「と、言いつつ、ソラなんだか嬉しそうだねぇ……」

 苦笑するソラや肩をすくませるドナルドとグーフィーに呆れられても、強がるほどの余裕もない。
 街に張り巡らされた鉄柵が、まるで牢獄の鉄格子よう。錆びた鉄門が大げさな音を立てながら開いてゆく。広場にたどり着くと、一番に目に飛び込んできたのは不気味な緑の泉とギロチンの前に集まったサーチゴーストの群れだった。モンストロやアトランティカでも見たことがあるハートレスであるのに、この不気味なハロウィンタウンだと相性がいいのか迫力が十倍増しである。いっせいにジロリと見られ、恐怖のあまり、とっさにイヤーッ! とソラの首にしがみついた。

「ウッ、ちょ、フィリア。息がっ……」
「グーフィー! 僕たちがフォローするんだ!」

 ドナルドの勇ましい声に、グーフィーは「あれぇ?」と呑気に返す。

「ハートレスの様子、なんだかいつもと違くない?」
「えっ?」

 一気に冷静になって、みんなで改めてハートレスたちを見た。いつもならこちらを見るなり襲ってくるハートレスたちは未だ動かず。代わりに「レディース&ジェントルマン!」とスピーカーを通した男性の声が広場に響いてきた。

「ご紹介しましょう。我が街の主役にして恐怖と悪夢の王──ジャック・スケリントン!」

 まるで操り人形のよう。ハートレスたちがすすす……と端にずれて、中央の緑の泉から縞スーツのガイコツが浮き上がってくる。彼は細長い全身が泉から出きった瞬間にパっと両手を広げ役者のようにポーズをとった。
 ハートレスを従えるガイコツの男。なんて不気味でおぞましく悪夢のような光景なのか。スピーカーを使っていた小さな男が彼に惜しみない拍手を送る。

「ブラボー、ブラボー! ジャック、これは今までにない見世物ですよ!」

 ジャックと呼ばれたガイコツは柔和に微笑み、優雅に「ありがとう、ありがとう。町長」と答えたあと、悩まし気に頭を撫でた。

「しかし、まだハートレスの動きにゾーッとくる不気味さが足りない。身も凍るほどの恐怖が欲しいんだ! フィンケルスタイン博士のところへ行ってくる」

 そのままジャックは細長い脚を動かし奥の屋敷へ行ってしまった。町長と呼ばれた男も街のかざりつけに行くと言うなりどこかへと去ってゆく。気がつかなかったが自分たちと共に先ほどのショーを見学していたこの世界の住人たちもぞろぞろと解散していった。たちまち広場に取り残される。

「なんだったんだ。あれ?」
「ハートレスの動きについて言ってたね……あんなに不気味なのに」

 半べそでソラに答えると、ドナルドとグーフィーも首をひねる。

「ハートレスを操るなら、マレフィセントの仲間──?」
「そんな悪い人には見えなかったけど」

 いったいジャックは何者なのか。すぐにソラは興味深々な顔つきで「追いかけてみようぜ!」と言い、反対する間もなくジャックの後を追うことになってしまった。




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