僅かな期間でソラはドナルドよりもハートレスの船を撃ち落とせるようになっていた。
 そんな彼の運転に身を任せ、ジミニーから残りの仔犬の数を聞いたり、服を返却に行ってくれたグーフィーがアグラバーの城下町でジャファーから解放された人々と話した内容を聞いたりしていた。

「それで、王様とカイリを見た人はいなかったみたい」
「そっか……ありがとう、グーフィー」

 うっかり笑顔は崩さないように注意しながら、ふぅとため息をこぼす。

「カイリ。いま、どこにいるのかなぁ……」
「王様も」

 ドナルドの声も寂しそうだった。広大な星の海。ソラが世界を救うのと、友だちとの再会はどちらが先になるのだろう。

「リクは無事だっただろ。二人も大丈夫って信じよう!」

 「それよりも、もっと笑って」とソラより言われ、慌てて表情を確認する。
 リクはトラヴァースタウンにいる。あそこにはレオンやエアリスたちもいるし、リク自身も身を守る術もあるようだから安心だ。けれど、もし再びトラヴァースタウンへ戻ることがあれば、今度こそソラの旅に同行を頼もうと決意していた。ドナルドは全力で説得する。
 さて、ここら辺はハートレスが少ない。笑顔を維持するためみんなでずっとお喋りしていたが、突然ドナルドが「グワッ!」と叫んだ。

「なんなんだ、あれ!」

 彼が指す方向──進行方向前方に浮かんでいた岩影から、とても大きなクジラがぬっと身を現した。アグラバーの世界くらい大きいクジラは、まるで海の中のように星の空間を泳いでいる。
 ハンドルを握っているソラも「すごいデカイ……」と呟きながら、グミシップのスピードをそっと落とした。クジラはウォンと獣のように鳴きながらグミシップのすぐ真上を通ってゆく。ただそれだけなのに、暴風のような衝撃がグミシップを襲い、悲鳴をあげて座席にしがみついた。

「クジラだ、怪物クジラだ!」
「モンストロ!!」

 グーフィーが怯え、ソラのフードから飛び出たジミニー叫んだ。座席にしがみつきながら彼に訊ねる。

「ジミニー、あのクジラを知っているの?」
「やつこそクジラの中のクジラ、クジラの王だ。おまけにとても狂暴なんだ!」

 去ったと思ったモンストロがぐるりと巻き返してきて、またグミシップの側をかすめてゆく。小さなグミシップは水面に浮かぶ木の葉のようにくるくる回った。
 クジラの咆哮が星の海に響き渡って、ただでさえ少なかったハートレスの船が散り散りに逃げてゆき、グミシップのみとなる。
 モンストロのギョロっとした瞳はグミシップをしかと見つめていた。エサだと思ったのか、グワッと口を広げて迫ってくる。

「うわあ!? ソラ、にげて!!」

 ドナルドに言われてソラが慌てて急発進するも、みんな焦り顔であったため笑顔パワーが足りず、ひょろひょろ運転になってしまった。モンストロはぐんぐん迫ってきている。

「だめだ! のみこまれる!!」

 ソラの声が聞こえたときには、グミシップはすでにモンストロの口の中に入りかけていた。

「こんなところで、旅が終わってしまうの?」

 バクンとクジラの口が閉じたとき、真っ暗になった視界のなか、みんなの悲鳴が聞こえて、しっちゃかめっちゃか。グミシップごとぐるぐる回る感覚の最後に大きな衝撃があり、そこで意識が途絶えた。




原作沿い目次 / トップページ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -