そよ風がレースのカーテンを揺らしている。柔らかな日差しに照らされて、教室の窓際で友人と二人きり、静かにゲームをする穏やかなひととき。

「また俺の勝ちだ」

 チェックメイトを宣言すると、今回は策が尽きたのか、渋い顔したエラクゥスは大きくため息を吐いて天井を仰いだ。

「う〜ん……今日はちょっと調子が悪いなぁ」
「いつも通りだろ?」
「あ、言ったな?」

 いたずらっ子のように笑う友と共に、手早く乱れた駒を並べ直す。

「もう一勝負だ」
「ああ」

 もうすぐ整うというとき、扉がそっと開く音を聞きつけた。クラスメイトが来たのかと思いきや、知らない女の子が立っている。

「誰だ?」

 呟きをとらえ、駒を並べるのに集中していたエラクゥスもそちらを見た。彼も彼女を知らないのか、アッと目を見開いている。

「君は?」
「あ……私……」

 扉の隙間から部屋の中を不思議そうに覗いていた彼女が窓際からの呼びかけに気づき、おずおずと部屋に入ってきた。迷子のように頼りなく、今にも泣き出しそうなほど怯えた表情をしている。
 潤んだ瞳が陽の光に煌いていて美しく、彼女を見ているとなんだか胸の中を焼かれるような錯覚がした。世界を飛び出した時と同じ引力を感じ、目が離せない。
 ここに住んでいる人口はかなり少ない。自分という前例を知っているからすぐにピンときた。彼女は別の世界から来たのだと。
 側に立つと彼女はじぃっとエラクゥスを見つめていた。沈黙に耐えられなくなったエラクゥスは愛想笑いを浮かべたまま口を開く。

「俺はエラクゥス。こっちは──」
「ゼアノートだ」

 普段だったら別に気にしないことだが、この女には絶対に自分で名乗りたいと思った。しかしこちらの気持ちを知りもしない彼女はエラクゥスを見つめたままポロポロ涙をこぼし始める。

「えっ、どうしたんだっ?」

 慌てたエラクゥスが失礼にも「ゼアノートの顔が怖かった?」などとこちらを指してくる。エラクゥスを横目でジトっと睨んでいる間に彼女はゆるくかぶりを振った。

「自分でもよくわからないの……でも私、ずっとあなたに会いたかったんだと思う」
「会いたかったって──俺に?」

 身に覚えがないようで、ワケが分からないと言った顔したエラクゥスが助けを求めるようにこちらを見てくる。そんな縋るように見られてもこちらだって困る。

「私、フィリア」

 涙をぬぐい、薄く微笑みながら彼女が名乗る。心底ホッとしたエラクゥスがいつものようにニカッと笑った。

「えーと。なんだかよくわからないけど、よろしくな、フィリア!」

 こんなわけで──異世界から迷い込んだらしいフィリアと名乗った少女は、しばらく自分たちと共に暮らすこととなったのだった。





R3.2.2




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