世界が浮かぶ暗い海を渡る旅。最初の頃に比べて笑顔を保てるようになってきた。
 ハートレスの船からの攻撃や飛んでくる障害物を避けながら、ドナルドは丁寧にグミシップのハンドルをきる。それはまるで命の危険を忘れるくらい穏やかで、ついにはウトウト瞼が落ちてきそうになっていたとき、その世界は現れた。
 ドナルドの落胆したため息で、はっと顔をあげると、グミシップの前面に緑に輝く星が見えた。

「ねえドナルド、王様、ここにいるかなァ?」

 新しい世界の前でグミシップを停止させるも、それ以上近づこうとしないドナルドへグーフィーが声をかけると、ドナルドは大げさにもう一度ため息を吐いた。

「こんな、何もなさそうなところに王様がどんな用があるっていうんだ? わざわざ降りて行って捜すだけ無駄ってもんだよ」

 そして新たな座標を検索しつつグミシップを星から遠ざけようとし始めたものだから、座席からソラが身を乗り出した。

「ちょっと待った! でもリクやカイリならここにたどりついてるかもしれないじゃないか。俺はふたりを捜すんだから、ここに降ろしてくれよ、ドナルド」
「ダメダメ、まずは王様を見つけなくちゃ。先を急ごう、グーフィー」

 すげなくグミシップを動かし続けるドナルドの手元――ハンドルに、ついにソラが掴みかかった。ドナルドが振り払おうとし、グミシップがぐらっと揺れる。今までにない異常な事態に慌ててふたりを止めようと座席から立った瞬間、船体の左側が落ち込み、グーフィーと共に左側の壁に額を打ち付けた。

「俺は降りる!」

 船体の右側が下へ。

「僕は降りない!」

 船体の左側が下へ。

「降りる!」

 右へ。

「降りない!」

 左へ。

「や、やめて二人とも……」

 なんとか壁にしがみつき、くらくらしながら操縦席を見ると、周囲が見えていないのだろう、歯をくいしばったソラとドナルドがハンドルを握りあってにらみ合ったままなのが見えた。

「降りるったら降りる!」

 業を煮やしたソラが、ハンドルだけではなく周囲のボタンを適当に押し始めた。大きな音が鳴ったり、ライトがついたり消えたりして、揺れも相まってしっちゃかめっちゃかな状態だ。
 ピーガガガ! グミシップから聞いたことのない音がしている。

「こら!勝手にさわるんじゃない! や、やめろー!!」

 ドナルドが怒ってソラの手を掴むと、はずみでソラの手がまたなにかのボタンを押した。すると、体を預けていた壁が動き出す。

「えっ?」

 どうやら自分は壁ではなく、扉に縋っていたらしい。開かれてゆく扉の隙間から緑の世界が放つ光が差し込んでくる。
 最悪なことに、そこでまたグミシップが強く揺れた。衝撃に一度体がはねて、そのままころんと隙間から転がり落ちる。

「フィリア!」

 気づいたソラの声が呼んでくるのを聞きながら、緑の世界へ落ちてゆく。遠ざかってゆくグミシップから今度はソラが落ちてくるのが見えたところで、ふっと意識がなくなった。




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