右顔をべろんと舐められたことで、ウトウトと目が覚めた。

「んぅ……ん?」

 寝起き特有の、鼻にかかった声があがる。深い眠りから無理やり起こされたため、まぶたがよく開かない。薄暗い。夜なのか。いつから座ったまま眠ってしまっていたのだろう。
 寝ぼけ眼で左右に視線を動かせば、左隣にはうつ伏せで眠るフィリア。右隣には見知らぬ大きな犬が舌を出している。
 なんだこれ? あぁ、そうか。

「夢か」

 突然、妙な状況に置かれていても夢ならば納得だ。眠気に従いそのまま二度寝しようとしたら、犬が起きろと言わんばかりに飛びかかってきた。腹にどーんと衝撃を受け、軽い痛みに今度こそ覚醒する。

「夢じゃない?」

 ハッハッと舌を出して息をする犬。

「どこだよ、ここ……」

 冷たくて固い石畳にずっと座っていたためか痺れた尻をかばいながら、おそるおそる立ち上がった。自分はいま、高い壁に囲まれた路地にいるらしいが、こんな道にさっぱり心当たりはない。見覚えのないさまざまなポスターが、レンガの壁一面に場所を取り合うかのようにべたべたと貼られていた。

「まいったな……おまえ、知ってるか?」

 未だ、じっとこっちを見ている犬に問いかけてみる。そりゃあ、答えなんて期待していなかったが――犬は何かに気づいたのか、ぴょこんと片耳を持ち上げると、さっさと走り去ってしまった。

「あ、おい――

 呼び止めるも虚しく、とり残される。
 まぁ、いいか。犬のことよりも、こんこんと眠り続けているフィリアを起こすことにした。人のことは言えないが、石畳に寝そべって体が痛くならないのだろうか。

「フィリア、起きろよ。フィリアってば……おーい」

 しかし、いくら揺さぶっても彼女はいっこうに目覚めなかった。息はあるし、体温も正常なのだが、固く閉じた瞼は震えもしない。よほど深く寝入っているのだろうか。はやく現在地を確認したいが、こんな場所に放置しておくことなどできない。仕方なく、フィリアを背負いながら探索をすることにした。




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