その日は、カイリといつもより早く家を出た。島に着くとすでにリクの船があり、入り江に向かえばすでにリクはイカダの作業に入っている。
「リク、おはよ〜」
早速、彼に声をかけると晴れやかな笑顔が返ってきた。
「おはよう。早いな、二人とも」
「私たちが一番だと思ったんだけどな。リクったら、どれだけ早くにここへ来たの?」
「こいつを完成させるのが、待ちきれなかったんだ」
カイリに答えながら、リクがロープをきつく結ぶ。イカダは四人乗るのに十分な大きさになっていた。
「よし、これで完成だ」
「やったあ〜!」
簡素だが、立派なイカダの完成に胸が高鳴る。大嵐などに巻きこまれなければ、たやすく壊れることはないだろう。
「あとは、水と食料を積むだけだな」
「予定通り、明日には出発できそうだね」
「あっ!」
リクとカイリが計画を確認してる中、波打ち際に探し物を発見する。取り上げて確認すれば、色も形も申し分ない。
「フィリア、どうした?」
「カイリ、また見つけたよ。サラサ貝!」
「ありがとう!……うん、これなら大丈夫」
サラサ貝のサイズを確認するカイリの手元を、リクがしげしげと覗き込んだ。
「ああ、船乗りのお守りか」
「あと一枚揃えば完成だよ」
「そうか。見つかるといいな」
そしてリクは「食料を探してくる」と行ってしまった。
「フィリア、私たちも探しにいこっか」
ソラはきっと今日も来るの遅いだろうしね。そう言うカイリに頷いて、のんびり貝殻と食料を探しに行く。
ソラが船を漕いでやってきたのはそれから数時間後のことだ。カイリと果物を見つけている間にリクが釣竿をこしらえて、ひと段落ついたときだった。
出迎えると、一番遅い到着なのにソラはまだ眠たそうな顔をしていた。「夜更かしでもしたの?」と質問すると「ちょっと考え事してて……」と、彼にしては珍しい回答が返ってくる。いつも楽しそうなソラがそんなに悩むことなどさっぱり思い当たらない。
「ソラ。困りごとがあるなら、私でよければ相談にのるからね?」
昨日のカイリのマネをしてお姉さんぶるも、ソラに「え、べ、別にいいよ!」と断られてしまった。ちょっとしょんぼり。
「あ〜、ソラ! いま来たん? 遅いなあ」
近くにいたらしい、セルフィが大きな声をあげながらやって来る。目の前まで来ると、いつものようにニコリとした。
「なあ、フィリア。昨日の話、途中やったやろ?」
「パオプの実の伝説のこと?」
「そうそう」
セルフィがチラリとソラを見る。どうしてか、ソラがビクッとした。
「ソラはパオプの実のおまじないってためしたことある?」
「はっ!? な、なに言って」
「あるわけないよなあ。ソラだもん」
「どーゆー意味だよ!」
「そーゆー意味に決まってるやろ〜」
ボッと赤くなるソラ、セルフィはケラケラ笑った。
「おまじない? 伝説じゃないの?」
「そんなん、どっちも似たようなもんや」
一転し、セルフィは恋する乙女の顔になり、熱っぽいため息をつく。
「あんな、たいせつな人とパオプの実を食べさせあうと――ふたりがどんなに離れてても必ず結ばれるんやて。はぁ……ロマンチックやね。いつかためしてみたいわ」
要するに、パオプの実を使った恋人同士のおまじないらしい。その手の話はとても興味がある。
「とっても素敵なお話だね」
「せやろ〜! この島で『パオプの実食べさせあおう』言われるんは『愛してる。傍にいてほしい』って言うんと同じ意味なんやで!」
「わあ……まるでプロポーズみたい」
「みたい、じゃなくて、もうプロポーズや!」
きゃあきゃあと頬を染めるセルフィがとても可愛らしい。
パオプの実、食料に持っていこうと思っていたが、そんな伝説があるのならやめておいたほうがよさそうだ。
「ねぇねぇ、セルフィは一緒におまじないしたい人いるの?」
「ん? パオプの実を試してみたい人はまだおらんかなあ〜。フィリアはどう? 気になる人とかおるん?」
セルフィにいたずらっぽくウィンクされて困ってしまう。一緒に食べたい人――? ソラはすでに拗ねてこちらに背を向けている。
「う〜ん?……よくわからないや」
「もし好きな人ができたら、このおまじない試してみてな!」
セルフィはまるで八百屋さんのような口調で「二人っきりでこっそりするのがオススメやで!」と言った。
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