本音と建前
――それはとある世界でのこと。
「ヴェン!……ヴェン!」
パタパタと靴の音を廊下に響かせながら、フィリアがヴェントゥスのいる部屋にやってきた。ヴェントゥスは読んでいた本を閉じ、息を切らせながらやってきたフィリアを振り返る。
「どうしたんだ、フィリア?」
「思いついたの!ヴェンのキーブレードで簡単に二人乗りする方法!」
「えっ……!?どんなの?」
ヴェントゥスが訊ねると、フィリアは満面の笑みで魔法を唱え、ぽんっと音を立てて小さくなった。
「これだよ、ミニマム!」
「あっ、なるほど……!」
小さくなったフィリアを掌に乗せながら、ヴェントゥスは納得する。これならば、フィリアと一緒でも一人乗りと同じようにキーブレードに乗ることができるだろう――だが。
「私がミニマムで小さくなってヴェンのポケットに入れば、もう抱き合って、のろのろ運転をしなくてもいいよね!」
フィリアが嬉しそうに続けた言葉に、ヴェントゥスはピクリと反応した。
「…………」
「あれ?ヴェン、どうかした?」
急に黙ったヴェントゥスに、フィリアが不思議に思って見上げてると、先ほどまで笑みだった顔が真面目なものに変わっていた。
「やっぱり、それはだめだ」
「え……ええっ、どうして!?」
「次の世界まで魔力がもつかどうかなんてわからないし、もし移動中に小さくなったフィリアを落としちゃったら大変だろ?」
次の世界への距離なんていつもわからないし、異空の回廊にもアンヴァースが出る事がある。戦闘の途中などで、もし小さくなったフィリアが星屑の海に放り出されてしまったら……救出は絶望的だ。
ヴェントゥスの尤もな意見に、フィリアがしょんぼりと俯いた。
「そう、だね…………はぁ、いい考えだと思ったのになあ……」
がっかりとするフィリアを机の上に置いて、ヴェントゥスは先ほど閉じた本を持って本棚へ向かう。その顔は仄かに赤い。
とっさに言った適当な理由だったが、簡単にフィリアが納得してくれてよかったと、彼はほっと息を吐く。
「フィリア、ごめん。でも……俺は今のままの乗り方がいい」
とても小さな呟やきと共に、コトンと本が納められた。
2010.3.30
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