風が渇いた大地の上で砂を運び続けている。なんて寂しい場所だろう。まだゼアノートを信じていた頃に幾度か訪れた場所であったが、こうしてよく観察するのは初めてだった。
 かつての戦いの名残である、削り取られた岩山に力がいくつも爆発した跡。それらを崖の上から眺めながら、テラはキーブレードを召喚する。歯車を模した光を纏いながら、心の具現である剣は静かに右手に現れた。
 師であり父であるマスター・エラクゥスと、思い出の詰まった故郷の地。失ったものは大きく、抑えたいと願い続けていたはずの闇は、頼もしい力となって己の奥底に根付いていた。
 自分の弱さが、見抜けなかった愚かさが、ここまでゼアノートの策を許してしまった。しかし、これ以上、奴の思惑通りにさせるわけにはいかない。

「この力、友のために――

 必ず守る。
 誓いをたてて、テラは崖の道を進む。





★ ★ ★ 





 初めて足を踏み入れる荒野の地に、アクアはそっと息を飲んだ。
 今まで訪れたどの世界よりも静かだった。長い間、誰もこの地に住みつこうとしなかったのだろう。人はおろか、動物や植物さえも。
 まるで生と死の狭間のようだった。誰からも忘れ去られて、極少数の人間が知るのみの世界。だからこそ、いつかもここは決戦の地に選ばれたのだろうか。生々しい戦いの跡を見下ろしながら、アクアは己のキーブレードを呼び出す。輝く花びらを散らしながら、青いキーブレードは鈍く日の光を反射した。
 この先に、テラがいる。マスター・エラクゥスを倒したのが本当に彼なのか、確かめるためにここへ来た。マスター・イェンシッドが見誤るとは思えないが、こればかりは間違いであってほしかった。
 深く息を吐きだした。こうなる前に自分にできることはなかったのだろうか。自問を繰り返してばかりいた。
 きっと、まだ終わりではない。この先、更に自分たちを分かつ出来事が待ち受けているのかもしれない。

「私たちは、つながっている」

 どのようなことが起きても、乗り越えてみせる。
 決意を込めて呟いて、アクアは先へ歩き始める。





★ ★ ★





 ヴェントゥスは無言で焼けた岩の上を歩いていた。旅に出てから、この世界に来るのは三度目だ。一度目はなんとも思わなかった砂が混じった風さえも、懐かしいと感じるようになっていた。
 道が崖沿いになり、前方の視界が開ける。崖下に残された、自然の力でもまだ消しきれない戦闘の跡に、これから挑む戦いを連想した。
 手を空へ差し伸べて、願うだけで光が溢れる。キーブレードはいつものように手に収まって、静かにヴェントゥスを見返してくる。みんなでキーブレードマスターになるのが夢だと語っていた頃が、もうずっと遠い日のことのように思えた。

「……ずっと友達だ」

 キーブレードを通し、その先の友へ伝えるように囁くと、ヴェントゥスは目的の場所へ向けて再び歩みを再開させる。




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