足下のガラスの残骸を回廊の中へ蹴っ飛ばし、ヴァニタスは地面に転がっていた仮面を拾いあげた。

「……本当に無意識だったのか?」

 思いのほか、なかなかに骨が折れた。
 フィリアの戦闘の技術などどうでも良いが、発動しないトラップ魔法、手もとのみを狙った電撃魔法、直接こちらを傷つけないよう配慮された氷魔法……実力の差は承知していたはずだし、あの性格からして、あれでも本気で戦っていたと考えた方がしっくりくる。
 これだけ片鱗を感じさせておきながらも、まだ本人が無自覚であることは注視すべき問題だった。さすがに、次に対峙した時はこちらを消すつもりで戦おうとするはずだが、このままでは最悪の事態になりかねない。理解のないところに発想があろうはずもないことは、自分とヴェントゥスとの関係でよく知っている。
 仕方ない、マスター・ゼアノートに相談するか。
 大きなため息を吐き出しながら荒野へ繋がる回廊を開き、入ろうとして足を止めた。

「……あいつ、ヴェントゥスへの感情には気付いたんだな……」

 それは自分の望みであり、計画にも前提として進められてきたことではあるが、やはり苛立ち、叩き壊したくなる。
 仮面を両手で持ち直しながら、しばし目を閉じて冷静さを取り戻そうと努めた。フィリア以外のことを考えるのは難しいが、それさえできればすぐにいつもの自分に戻れる。
 この世界でしなければならないことは、もうほとんど終わった。残るは予備の見極めだけだ。
 深い闇を抱えるテラに比べ、強い光をもつアクア。当初は闇を開放したヴェントゥスと彼女のような存在がχブレードの材料となる予定だったと聞いている。
 ヴェントゥスやテラのついでとはいえ、アンヴァースなどと戦って彼女も成長していることだろう。互いに気にかかる人物が近くに居た、レイディアントガーデンの戦いが全力だったとは認めない。
 次の戦いで決戦の地を踏む価値が見いだせなければここで消す予定である。だが、できれば決戦の地で――フィリアの目の前で消してやりたかった。そうすればフィリアは猛り狂う炎のように、片時も忘れられなくなるほどに自分のことを憎むだろう。
 口元で少しだけ笑んだあと、ヴァニタスは仮面をつけ、闇の回廊の中へ消えた。




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