いきなり好き勝手に振り回されて、最後は地面に叩きつけられた。吐き気まではしないものの、頭の中がぐらんぐらんに揺れて気持ちが悪いし、鎧を身につけていなかったので全身が軋むように痛む。
 どうやら、星のカケラで世界移動したらしい。フィリアを置いてきてしまった。
 苦痛で呻いている間に、巻き上がった土煙が晴れてゆく。すぐ近くに誰かが立っているのが気配でわかった。

「それ、王様が持っていった『星のカケラ』!」

 のんびりとした男の声が叫んでくる。視線を上げると、三角帽子をかぶったアヒルの男と、鉄甲をかぶった犬の男があんぐり口を開けてこちらを見ていた。ふたりの背後には、くねりと曲がって建つ、三角屋根がたくさんとりつけられた不思議な塔。また知らない世界に着いたようだ。

「王様……?」

 星のカケラの持ち主は王? では彼が王? この二人は知り合いなのか?
 疑問を浮かべながら立ち上がると、二人が早足で近づいてきて、強く背を押してくる。

「えっ、おい、何だよ!」
「いいから、早く!」

 わけがわからないまま、否応なく、目の前の塔へ連行されてしまった。





★ ★ ★





 延々と続く波の音、ぬるい風が吹いていた。海鳥がどこかへ去って、雲は茜色の空を流されてゆく。フィリアは岬の中央に膝を抱えて座り、ただただ空を見上げていた。
 ヴェントゥスを連れた星が空に消えてから、随分と時間が過ぎた。
 今、どの世界にいるのだろう。あと、どれくらいで戻ってきてくれるだろう。世界移動の手段がない以上、迎えに来てくれることを待つしかない。何もできることがないことはとてももどかしく、そして淋しかった。

「フィリア。いつまでここでそうしているんだい?」

 夕日と自分の間を遮るように、呆れ顔をしたピーター・パンがティンカー・ベルと共にやってくる。

「もうすぐ夜だ。潮が満ちてくるから、ここにいたら溺れちゃうよ」
「でも、私、ヴェンが戻ってきたときに、わかりやすい場所にいないと」
「いつヴェンが戻ってくるか、わからないのに?」
「いつ戻ってくるかわからないから、いなくちゃ」

 心配顔したティンカー・ベルが膝の上に乗ってきた。羽根ほども体重を感じない。ちょん、とした爪先が可愛らしい。
 ティンカー・ベルを見ていると、ピーター・パンの顔がにゅっと視界に入ってきた。

「そうだ! フックを追い払ったから、入江に人魚たちが戻ってきたんだ。会いに行かないか?」
「人魚……?」

 不思議だ。あんなに会いたいと思っていたはずなのに、さほど胸が踊らない。

「ヴェンといっしょじゃないから、いい……」

 言いながら、顔を横に逸らす。気遣いはありがたいが、構わないでほしかった。今は何をしても、誰といても、ヴェントゥスのことしか考えられないから。
 ピータ・パンから大げさなため息が聞こえてくる。

「あ〜〜っ、もう。ヴェンがいなくなってから、ずっとこんな感じなんだから! 君は、ヴェンがいなくちゃ何もできないの?」
「……放っておいて」

 ピーター・パンに苛立った声で言い返すと、半ば強引に手首を掴まれた。びっくりして見上げれば、怒り顔がある。

「今日はもう日が沈む。フィリア、俺たちの隠れ家においで!」
「だけど」
「いーから!」

 有無を言わさず宙に浮かばれ、全てが橙色の光に照らされた島を飛びはじめた。大きな太陽が真っ赤になって海の中に沈んでゆくのが見える。きれいで、どこか寂しい景色。ヴェントゥスと共に見たいと思った。




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