ガントゥはモンスターたちの攻撃をかいくぐり、なんとかコントロールルームにたどりついた。
最先端技術を施した自慢のブラスターも、あのモンスターたちには効果がない。それが彼の悩みであり、ひいてはこの船全体の問題だった。
コントロールルームの中央で、議長がモニターを睨みながら細長い指先を幾度も合わせていた。ガントゥもその隣に立ち同じ画面を覗き込むと、巨大なモンスターが機関室にいる者たちと戦っている。
「非常事態です、ガントゥ隊員。何か解決策はありませんか?」
「モンスターの対策は、現在も検討中です……」
議長の目を見れぬまま、額に浮かぶ脂汗をぬぐう。掌がじっとり濡れた。
「そうですか。アクアさんがいれば、この事態を収拾することができたかもしれませんが」
「しかし、あいつ――いえ、彼女はもう」
「わかっています」
ぴしゃりと言われ、口を噤む。
議長がため息を吐きながら、モニターのボタンを押した。コントロールルームの映像が、船の所々に設置された監視カメラのものに切り替わる。
「このままでは、この船は爆発してしまうでしょう。やむを得ません。ガントゥ隊員、総員に脱出の準備を――」
「待ってください!」
分割された、とある画面を見てガントゥは命令を遮った。議長が驚いた顔を向けてくる。
「どうしました? ガントゥ隊員」
「脱出よりも先に、私に良い考えがあります」
ガントゥの分厚い唇が、醜く歪んだ。
★ ★ ★
「『パスワードを入力してください』……?」
大きく頑丈な扉の前で、フィリアはヴェントゥスと立ち往生していた。
これまで一本道だったので、隠し通路がない限り合っているはずだが、如何せん、パスワードが分からない。試しに扉をノックしてみると、ほとんど音が響かなかった。強行突破するには厚すぎる。
「この扉、壊して進むのは無理みたい」
「キーブレードを使おう」
「開けられそう?」
「この扉が鍵で閉じているなら、きっと。フィリア、ちょっと後ろに下がって」
普段、ヴェントゥスたちは「むやみにキーブレードでこじ開けるような真似をしてはいけない」と教えられいるけれど、こんな緊急事態なら、マスター・エラクゥスもお許しになるだろう。
ヴェントゥスがキーブレードの先端を扉に向けると、キーブレードの先端に不思議な光が集ってゆく。光が扉に繋がれると、開錠の音と共に目の前を塞いでいた扉がなくなった。
「さすが、キーブレードだね」
「プログラムにエラー発生。一時、通路を閉鎖します」
賞賛を伝えると同時に、機械音声がそう告げる。
「なんだ?」
「ヴェン、道が!」
壁のような隔壁がいくつも降りてきて、通路を分断し始めた。辛うじて目の前の一枚は潜り抜けるが、次の隔壁との間に閉じ込められてしまう。
ヴェントゥスが隔壁を持ち上げようと、指を差し入れうんうん唸った。
「……だめだ、ビクともしない」
「――炎よ!」
一点集中でトリプルファイガを撃ってみるも、表面がちょっぴり凹んで焦げただけ。扉ほどとはいかなくても、こちらもかなり頑丈らしい。
「これには鍵がないみたいだし……困ったな」
慣れた様子で、キーブレードを回すヴェントゥス。その背後に、突然、黒い影がうねり上がった。
「凍れっ!」
とっさにブリザガをぶつけると、腕を尖らせたフラッドが凍りつく。
「こいつら、こんなところにも……」
ヴェントゥスと隔壁を背に体を寄せる。白い床や壁から染み出すように、周囲にアンヴァースたちがどんどん湧きはじめた。
「アンヴァースには、壁なんて関係ないんだね」
「うらやましいよ」
同意しながら、周囲の状況を確認する。狭い場所での戦闘は使用できる魔法が限られ、自分にはひどく不利だ。ヴェントゥスのサポートをする方向で動こう。
フィリアは重心を低くして、アンヴァースの動きに集中した。
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