テラとアクアの試験のはずだったのに、光の玉の暴走のせいでヴェントゥスと一緒に参加してしまった。
 光の玉の動きはいつもより機敏だったが、なんとか全員無傷で滅することができた。さりげなく、テラとアクアが自分たちを庇ってくれたおかげだろう。
 フィリアは再びヴェントゥスと共に壁際に整列し、エラクゥスの言葉を聞いた。

「不測の事態であったが、心を平穏に保てるかを試すいい機会であった故あえて止めなかった。試験を続けるとしよう」

 テラとアクアが対峙する。次は二人の模擬戦だ。

「次にテラ、アクアの二人の候補者同士の模擬戦を見せてもらう。勝敗は問わず。能力が拮抗する相手と相対した時こそ心は浮き彫りになるのだ。――始め!」

 エラクゥスの合図で、テラとアクアが走り出した。テラの力強い剣と身軽さを武器にしたアクアの剣が交差する。二人のすさまじい攻防はいつもすごい迫力だった。
 テラが攻め、アクアが避ける。何打かそれを繰り返すと、次はアクアがテラを攻め返した。アクアの剣先がテラの鼻先を掠めるように走ってゆく。背をそらすように避けたテラが数歩下がりながら体勢を整える。それを更にアクアが追う。

「……え?」

 その一瞬、テラから濃い力を感じフィリアは目を瞬かせた。しかしすぐにそれは消え去って、再び二人の剣がぶつかりあう。
 きっと、気のせいだろう。そう結論付けて、フィリアはそのまま二人の対決を見守った。










 模擬戦が終了し、エラクゥスから試験の結果が発表される時がきた。
 
「承認試験の結果を伝える」

 エラクゥスが上座の中央に立って厳しい表情で話し始める。広間の空気が緊張で張り詰めた。

「テラ、アクアともに優秀であったが……此度はアクアをマスターとして承認する」

 広間にいる全員が息をのんだ。アクアだけ。エラクゥスの言葉に、頭の後ろを強く殴られたような錯覚がした。

「テラは心の闇を制する力が不十分であると判断した。更なる修行と精進に期待する。以上だ」

 フィリアはテラの背を見る。ここからではテラがどんな表情をしているのか見えないが、どんな気持ちでいるのかは察することができた。しかし、自分にはどうしてやることもできない。思わず服の裾を強く握り締めた。

「アクアはキーブレードマスターとしての心得を伝えるため、しばしここで待つように」

 エラクゥスはそう言い残しゼアノートと共に広間を出て行く。試験はこれで終了だ。
 フィリアはヴェントゥスと急いで二人の側へ駆け寄った。

「テラ……」

 名前を呼んだもののその後の言葉が出てこない。こんな時、なんて声をかけたらいいのかわからなかった。

「俺はテラも……」

 ヴェントゥスもそこで言葉が止めた。テラの横でアクアがヴェントゥスの言葉に頷いていたが、テラは何も答えずにただ床を見つめている。

「俺の心に闇…………すまない、一人にしてくれ」

 そう言うと、テラは一度もこちらを見ずにまっすぐ広間を出て行ってしまった。

「あ……」

 追いかけたい。そう思ったがテラはそれを望んでいない。できることは、ただテラの背中を見送ることだけだった。





★ ★ ★





 この階段を降りるのは、何年ぶりだろうか。
 ゼアノートはエラクゥスと別れ、ひとり階段を降りていた。
 相変わらずエラクゥスは甘い奴だ。マスターの承認に無用な試験を勧めたことや、光の玉の制御を奪ったことに関して全く自分を疑っていない。
 階段の踊り場でヴァニタスが壁に寄りかかって立っていた。近づくと、ヴァニタスは瞳だけでこちらを見る。

「どうだ、ヴェントゥスは?」
「まだ全然だ。俺が鍛えてやらないとな」

 それでいい。全ては計画通りに始まっている。自然と口元が緩んだ。

「ここではやめておけ。奴に感づかれると面倒だ」

 ヴァニタスが口角を釣り上げる。その笑みに、年相応の無邪気さはかけらもない。

「わかってる。……あいつにも旅をさせてやろうと思ってるんだ」

 言いながらヴァニタスが仮面をつけた。静かに笑い続けながら、ゼアノートはゆっくりと外に向かって歩き出した。




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