闘技大会・西ブロック。第一試合。
目の前でうろちょろしているフラッドたちに、フィリアは唖然と立ちすくした。
「どうして、アンヴァースが……?」
せっかく強者と戦いにきたはずが、これではいつもと同じである。
「試合開始!」
笛の音を合図に試合始まった。とりあえずフィリアはアンヴァースたちの中心に飛び込みマグネラを唱え、そこへサンダガを追加する。魔力の渦に飲まれたアンヴァースたちは、巨大な雷により一瞬で消滅した。
「勝者・フィリア!」
客席から歓声が上がる。フィリアは、とぼとぼヘラクレスのもとへ戻った。
「おめでとう、フィリア。楽勝だね」
「ありがとう――ヴェンは?」
「試合が終わったから、飲み物を買ってくるって」
「そう……」
若干気落ちしつつ、ヘラクレスの横に座る。
そういえば、彼に言わねばならないことがあった。
「あのね、ハーク」
「ん?」
「私、別に大会で優勝したいってわけではないの。だから、ハークの邪魔だけは――」
「待って」
ヘラクレスらしからぬ、鋭い声で止められた。気を悪くさせてしまったかと思ったが、彼の表情で違うと知る。
「そういうことなら言いっこなし」
「けど」
「フィリアが大会に参加したのは、それなりの理由があるだろう? 僕だって、自分の実力をフィルに認めてもらわなきゃいけない。だから、もし対戦することになっても、変な遠慮はなしでいこう」
ヘラクレスが悪戯っぽく笑う。どうやら、余計な心配だったようだ。
「わかった。じゃあ、もし決勝で戦えたら、全力で」
「ああ。お互いにベストを尽くしあおう」
頷きあったとき、ちょうどエーテルの瓶を持ったヴェントゥスが戻って来た。
★ ★ ★
「なぁ、ペイン。ハデス様はあの小娘をどうなさるつもりだと思う?」
「きっと、何かに利用するつもりなのさ。俺達は言われたとおり、魔物をつぎこんでおけばいい」
出場者用控え室にアンヴァースを放り込みながら、二人の子分は会話を続ける。
「でもよ、どれくらい増やしたらいいんだ?」
「俺が知るかよ。とにかくいっぱいだ、いーっぱい!」
「わかった。いーっぱいだな!」
すでに控え室は魔物で溢れかえっていたが、二人は魔物を詰め込むことをやめなかった。
★ ★ ★
「次の試合に勝てば、あの人とだ」
エントリー表をなぞり、フィリアは胸を躍らせた。やっと、きちんとした対戦相手を戦える。
「フィリア、嬉しそうだね」
「うん。一回戦から、ずっと魔物が相手だったから」
「ハーク、あの兜をつけたやつ、どれくらい強いんだ?」
ヘラクレスとヴェントゥスがエントリー表を覗き込んできて、顔を見合わせる。
「彼の実力は僕も分からない。けれど、広場の戦いぶりからして、かなり腕は立つだよ」
「そうだな。剣で魔物を真っ二つにしていたし……」
難しい顔で会話する二人に対し、フィリアは興味を持てずエーテルの瓶で口を塞いだ。確かに勝利はしたいが、目的ではない。相手に負けないほどの気構えを養うことと戦闘の経験を積むことが重要なのだから、相手の実力は知らないほうが都合がよかった。
二人の会話を聞き流していると、ついにフィリアの番がやってくる。決闘場に向かおうと歩き出すと、ヴェントゥスが呼び止めてきた。
「フィリア。約束、忘れないで」
「うん」
はっきり頷き、フィリアは次の試合に臨んでゆく。
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