――浮け!」

 フィリアの放った重力の魔法で、周囲のアンヴァースたちが無重力に囚われる。そこにヴェントゥスがキーブレードで攻撃を加えれば、アンヴァースたちはクラクラと混乱した。
 ヴェントゥスは盾と鎧をつけたもの――バックルブルーザーに手こずっているようだった。前面からの攻撃はたとえキーブレードであろうと受け付けず、お返しに強力な腹アタックを返してくるのだ。

「こうなったら、私が魔法で……!」

 飛んでくるカマイタチを転がって回避し、バックルブルーザー二体に接近する。こちらに気付いた一体が攻撃の準備を始め、もう一体がこちらに向かって盾を構えるが、臆せずに魔力を解き放とうとした――その瞬間。別のアンヴァースの相手をしていたはずのヴェントゥスが、自分とバックルブルーザーたちの間に飛び込んできた。

「フィリア! 出すぎだ、下がって!」
「ヴェン!? あ――凍れ!」

 慌ててサンダガを中断し、ブリザガに切り替える。バックルブルーザーの体が凍りつくのと、もう一体の背後に回ったヴェントゥスが切り伏せるのはほぼ同時だった。

「うおりゃ!」

 背後で、青年が威勢よくアンヴァースを真っ二つにしている。離れた場所では、少年がアンヴァースを殴り飛ばしていた。






 そんな調子で全てのアンヴァースを消し去ると、フィルが青年たちを見上げ、大きなため息を吐き出した。

「わかった、こうしよう。もうすぐ開かれる闘技大会でおまえたちの試合を見る。それからどっちをコーチするか考えなおす」
「よっしゃ! じゃあ俺、闘技大会にエントリーしてくる」

 青年が町の奥にある、立派な建物の方へ走ってゆく。闘技大会――なんだかとても面白そうだ。

「闘技大会? じゃあ、俺も――
「エントリー制限はあいつでいっぱいだ」

 フィルにそっけなく止められてがっかりしていると、ハークがフィルに詰め寄った。

「どうして、フィル! 僕をコーチしてくれるんじゃなかったの?」
「今言ったとおりだ。ヒーローになりたいのなら、闘技大会でこれまでのトレーニングの成果を見せるんだな」
「フィル……」
「それから、しばらくトレーニングは中断だ。おまえだけ俺が鍛えたら不公平だからな」

 突き放すように言うと、フィルはハークの顔を一度も見ずに、青年と同じ建物の方へ行ってしまった。残されたハークは悲しげに俯いてしまうが、落ち込む必要はないように思える。つき放つ口調の裏で、フィルから感じたものは……。
 隣にいたヴェントゥスが、ハークに歩み寄った。

「元気出せよ! 闘技大会でがんばればいいんだろ? 俺、ヴェントゥス。よかったら俺の力を貸すよ」
「きみが力を貸してくれる……?」
「うん」

 ハークの顔色がパッと明るくなる。頷いて、ヴェントゥスに手を差し出した。

「僕はヘラクレス。ハークって呼ばれてる。よろしく頼むよ」
「だったら俺はヴェンだ。いっしょにがんばろう」
「ああ」
 
 自分は、どうするべきか。顎に手を添え考える。彼に力を貸せると言えるほどの力はないし、今は己の修行のことで手一杯だ。
 二人の握手を眺めていると、ヘラクレスがこちらを向いた。

「君は?」
「私はフィリア」

 ヴェントゥスと同じく差し出された手と握手をすれば、微かだが――じんわりとした、まるで光っているような暖かな力を感じた。ヴェントゥスたちとは違うが、ヘラクレスも“特別”なのかもしれない。

「よろしくね、ハーク」
「こちらこそ。じゃあ、僕が先に行って準備をしてくる。コロシアムのロビーで待ってるよ」

 言って、ヘラクレスもフィルたちと同じ建物の方へ走っていった。フィリアたちも、追いかけるようにそちらへ向かう。




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