「21対20でフィリアの優勝だ」

 最後のぶどうの風船が粒になっていたことが決め手だった。
 審判であるホーレスの宣言で、フィリアの優勝が確定する。ワッと歓声があがり、拍手が響いた。

「フィリア、おめでとう〜!」

 優勝という実感がわかずにぼうっとしていると、チップとデールが飛びついてくる。

「わっ!……ありがとう、二人とも」
「あのピートに、本当に勝っちゃうなんて!」
「すごいやー!」
「あ、そうだ。ピートさんはだいじょうぶかな?」
「キャプテン・ジャスティスだ!!」
 
 荒い足音の方を見ると、土とほこりに塗れたピートがそこにいた。

「この俺を負かすとは、なかなかやるな」

 ピートが腕を組み、えっへんと胸をはる。

「しかし、こんなマグレは一度だけだ。いいか、今回は俺の調子が悪かっただけだからな!」
「は、はぁ……」
「フン。今日のところはここまでだ!」

 曖昧に返事をすると、ピートはマントを巻き上げて、どこかへと去っていった。

「吹き飛ばしちゃったこと、謝りたかったんだけど……」
「フィリア!」
「あ、ヴェン」

 ピートと入れ違うように、今度はヴェントゥスがやってきた。ヴェントゥスの姿を見ただけで、やっと緊張を解くことができるような安堵を感じる。

「フィリア、倒れただろ。平気なのか?」
「うん、あれくらいなんともない――
「あっ、と……」

 気が緩んだせいか、言葉の途中で足元がふらつく。ヴェントゥスが抱きとめるかたちで支えてくれたので転ばずに済んだが、代わりに心臓が跳ね上がった。

「なんともなくないじゃないか」
「少し……魔力を使いすぎちゃったみたい」

 体に力が入らないが、なんとか自力で立とうとすると、ヴェントゥスが腕の力をやんわり強めて阻んできた。

「ヴェン?」
「……フィリアが倒れたとき、俺、本当に心配したんだぞ」

 少し低めの、怒りを孕んだ拗ねた声。自分もヴェントゥスの立場だったら、きっと同じような気持ちになっただろう。

「ご……ごめ――
「でも、あいつを吹っ飛ばした時のフィリア、かっこよかった」
「え?」

 顔をあげると、先ほどとは一転して、ヴェントゥスが笑顔を見せる。一瞬惚けた後、フィリアもふんわり笑い返した。

「ヴェン。あのとき、私の名前を呼んでくれた?」
「えっ、聞こえたの?」
「……たぶん。そんな気がしたの」

 力を抜いてヴェントゥスの肩に頭を預けた。恥ずかしいけれど、ずっとこうしていたいとも思ってしまう。

「きゅー……」
「きゅー?」

 ヴェントゥスから苦しみを訴える可愛らしい声が聞こえてきた。見上げると、ヴェントゥスも不思議そうにこちらを見ている。

「……あぁっ! チップ、デール!」 

 フィリアが慌てて腹部を見ると、ヴェントゥスとの間に挟まれて、小さなリスたちはくるくると目を回していた。




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