試合は、とても白熱した。
 シマリスたちは何十倍も大きな風船を上手に扱い「すーぱーうるとらみらくるしょっと」を何発も繰り出し、一方、フィリアはインパクトにエアロを使いながら、着実に点数を稼いでいった。
 お互い一歩も譲らぬ攻防が続いていたが、勝敗が動いたのは試合終了15秒前のこと。フィリアがシュートしたバナナの風船を赤鼻のシマリスが守ろうとしたところ、風船は弾け皮となってコートに散乱。それによって足を滑らせたシマリスたちがコートに転がっている間に、わずかな点差でなんとかフィリアが勝利を収めた。

「あ〜あ、負けちゃった」
「でも、いい試合だったね!」

 シマリスたちはピョコピョコと側に寄ってきて、それぞれ小さな手を差し出してきた。

「うん。とっても」

 ありがとうと伝えながらそれに応える。こちらの手は彼らには大きいので、指先での握手だ。

「そういえば、自己紹介していなかったよね。僕はチップ!」
「僕はデール!」
「私、フィリア」
「フィリア、次の試合が決勝だよ。がんばってね!」
「えっ!?」

 次が決勝なら、これはすでに準決勝戦だったということになる。

「2試合目でもう決勝って、ずいぶんエントリーが少なかったんだね?」

 観客はこの広場を埋め尽くすほどに溢れている。キャプテン・ジャスティスが言っていたとおり、非常に人気があるように思えた。

「いつもなら、もっと参加者がいるんだよ!」
「今回はピートが出るから、みんな怖がってエントリーしなかったんだ」
「ピート……?」

 どこかで聞いたことのある名のような気がしたが、はっきりと思い出せない。

「わがままで、乱暴なヤツなんだ!」
「フィリア。絶対、負けないでね!」
「う、うん。がんばるよ」

 フィリアは、とっさに二匹に頷いた。





★ ★ ★





 フィリアがチップとデールと試合をしているとき、ヴェントゥスは見事なアイスを作りあげていた。

「あー、おいしかった。ごちそうさまでした。こんなにおいしいアイスクリームを食べたのは初めて」

 アイスを食べ終えたミニー王妃がこちらを見上げる。

「ありがとう。えっと……」
「俺、ヴェントゥス。ヴェンでいいよ」
「ありがとう、ヴェントゥス」

 上品に礼を言われ、こそばゆい気持ちになっていると、デューイたちも声をあげた。

「すごいや、ヴェン!」
「そうか、あそこをこうすればよかったんだ」
「作り方はわかったから、次はお客さんに自由に作ってもらうっていうのはどう?」

 「いいね」と笑い合う彼らを見ながら、物足りなさに疑問を抱く。そういえば、フィリアの姿が見当たらない。

「ほうら、やっぱ言ったとおりだ」

 恨めしげな声がしてそちらを見ると、じとりとした目つきでキャプテン・ジャスティスがやってきた。キャプテン・ジャスティスは機械に近寄ると、おもむろに拳で殴りだす。

「やっぱりこの機械が壊れているんだ! こんな機械、スクラップにしてやる!」
「おやめなさい、ピート!」

 ミニー王妃の怒声に、さすがのキャプテン・ジャスティスも硬直した。周囲からの冷たい視線にようやく気付くと、さすがに旗色を翻す。

「くぅぅぅ〜、今日のところはこれまでだ!」

 ドタドタと足音と煙をたてながら、キャプテン・ジャスティスが走り去ってゆく。

「キャプテン・ジャスティスのことを、ピートって呼んでたけど?」

 ヒューイたちがぴょん、とこちらを向く。

「暴れん坊で、この町の厄介者なんだ」
「キャプテン・ジャスティスと名乗っているのは、ミリオンドリーム・アワード狙いじゃないかな?」
「ミリオン・ドリーム・アワードって?」

 更に訊ねると、今度はミニー王妃が答えた。

「ドリームフェスティバルの催しのひとつで、この町一番の人気者を投票で決めているのです」
「それであいつ、投票とか言ってたのか」
「一番になれば商品がもらえるんだよ」

 ヒューイたちの言葉に、ミニー王妃が苦笑する。

「賞品といっても、おまけみたいなものです。みんなに誰かの人気者であることに気付いて欲しいの。そんな心を持って欲しいのです」

 ヒューイたちがこそこそと笑いあった。

「ピートは賞品だけが目当てだろうけどね」
「きっとピートの名前じゃ、誰も投票してくれないって思ったんだよ」
「バレバレだけどね」

 やり方は強引で粗忽、その上乱暴な奴だった。でも、それなりに頑張っていたのだし、ちょっぴり気の毒にも思えてくる。

「……あ。なぁ、フィリアがどこへ行ったのか知らないか?」
「それって、一緒にいた女の子のこと?」
「アイスを作っているとき、ピートに連れて行かれちゃったよ」
「えぇっ!?」
「たぶん、フルーツスキャッターじゃないかな」
「あら、もうこんな時間だったのですね」

 思い出したようにそう言うと、ミニー王妃が歩き出す。ヒューイたちもついて行くので、ヴェントゥスもそれに続いた。

「待ってよ、フルーツスキャッターって何?」
「それもまた、催し物のひとつです。魔物を追い払ってもらえたので、今日やっと開催することができました」
「でも、今回はピートの奴が参加してるから、エントリーは少なそう」
「もう決勝戦かもよ。ピートが優勝するのはいやだなぁ」
「負けそうになると、いつも風船をぶつけてくるんだもん――あっ、ヴェン!?」
「会場、こっちだよな!」

 ミニー王妃たちを追い抜いて、ヴェントゥスはフルーツスキャッターの会場の方へ走り出した。





★ ★ ★





 フルーツスキャッターの会場は、どんどん中央広場の客が流れ込んできているらしく、非常に混みあってきた。

「あなたが、ピートさん……」

 向かい側のコートに立つキャプテン・ジャスティスを見て、フィリアは呟くように話しかける。

「キャプテン・ジャスティスだ! いいか、これは決勝戦。真剣勝負だ。相手が少女だろうと、手加減はしないからな!」
「望むところです。よろしくお願いします」

 キャプテン・ジャスティスに一礼したとき、試合開始のホイッスルが鳴った。




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