アイスだらけのステージを見て、フィリアは「もったいない」とがっかりする。キャプテン・ジャスティスは上手にアイスを作れなかった。

「あーあ、ステージがベタベタだよ」
「だから、ピートには無理だって言ったのに」
「アイスがたくさん無駄になっちゃった」
「くうう〜〜! この機械がおかしいんだ! 俺が修理してやる!」
「おやめなさい!」

 屈辱と怒りに任せ、キャプテン・ジャスティスはアイスの機械を殴り始め、すぐにミニー王妃がしかりつける。キャプテン・ジャスティスはしぶしぶ手を引っ込めるも、恨めしげな視線を機械に向けたままだった。
 キャプテン・ジャスティスにはこの“困った”を解決できない。しかし、自分も機械は得意じゃない。どうしたらいいのか考えていると、ヴェントゥスがヒューイたちに名乗り出た。

「なぁ、俺にやらせてもらえないか?」
「キャプテン・ジャスティスができなかったんだぞ!少年にできるわけないだろう!」
「そんなの、やってみなきゃわかんないだろ?」

 ヴェントゥスが言い返すと、ヒューイたちもうんうんと頷く。自分も、きっとヴェントゥスならばという気がした。

「あいつよりマシかもね」
「はいこれ、この機械の操作方法だよ」

 説明書を受け取って、ヴェントゥスが機械に乗り込んだ。キャプテン・ジャスティスのときには壊れてしまいそうだったあの座席も、ヴェントゥスならすっぽり収まる。

「ヴェン、がんばって!」
「ああ。えっと……ここをこうして……」

 ヴェントゥスが操作方法を確認していく。真剣にメモを見つめる横顔を眺めていると、いつの間にかヒューイたちもステージに移動していた。

「それじゃあいくよ〜! ミュージック・スタート!」

 ヒューイの声と共に音楽が流れ始める。ヴェントゥスが鍵盤を操る度に大砲からアイスが飛び出して、それをヒューイたちが見事にスコーンの上に重ねてゆく。
 キャプテン・ジャスティスを恐れてか、こちらと距離をとるように歩いていた人たちも、ヴェントゥスたちの素晴らしい動きにステージの側へと集ってきた。

「あれが、スクルージさんが残していったアイスの機械か」
「あの男の子、上手だねぇ」
「私にもできるかしら?」
「やめたほうがいいんじゃないかな。君は、そのぅ、リズム感が全くないから」
「なぁんですって!」
「ねー、もうすぐフルーツ・スキャッターの時間じゃない?」
「うん、あと少しで始まるよ」
「えぇっ、急がなきゃ!」
「う〜ん。僕はまだこれを見ていたいよ」
「……フルーツ・スキャッター?」

 ざわめきの中、興味深い単語を聞きつけたフィリアは、ヴェントゥスを睨みつけているキャプテン・ジャスティスに訊ねてみた。

「キャプテン・ジャスティス。フルーツ・スキャッターってなんですか?」
「うん? フルーツ・スキャッターは風船を使ったゲームだ。この町で、ランブルレーシング並の人気を誇っているぞ」
「へぇぇ、なんだか面白そう」
「フルーツ・スキャッターにはこのキャプテン・ジャスティスも出場するんだ。少女も参加してみるか?」
「えっ、私も?」

 反射的に断ろうとして、思いとどまる。――ゲームに試合、いい機会かもしれない。

「はい。私も参加してみたいです」
「じゃあ、今すぐ登録だ! もうすぐ試合が始まるからな!」

 顔よりも大きな掌に腕を掴まれ、持ち上げられてしまうのではないかというほどの力で引っ張られる。

「ちょ、ちょっと待って、ヴェンに言ってから……!」

 フィリアは慌ててキャプテン・ジャスティスに声をかけたが、騒音で聞こえていないのか、そのままフルーツスキャッターの会場まで連れて行かれてしまった。










 フルーツ・スキャッターの会場は、中央広場より多くの人で賑わっていた。
 キャプテン・ジャスティスのおかげでなんとか登録に間に合ったフィリアに、第一試合の順番はすぐにまわってきた。

「制限時間内に相手のゴールへ多く風船を入れたら勝ち。中央線を越えない限り何でもあり」

 教えてもらったルールはたったこの二点だけ。実に、シンプルでわかりやすい。

「フィリア、時間だよ。コートに入ってくれ」
「はい」

 フルーツ・スキャッターの責任者であるホーレス・ホースカラーに頷いて、早速コートの中へ進む。ヴェントゥスの元へ戻る時間は全くなかった。いきなりいなくなって、きっと心配させてしまうだろう。後で謝らなければ。
 第一試合の相手は、フィリアの掌ほどの大きさのシマリスが二匹だった。お揃いのエプロンを身につけて、せわしなくシッポを動かしている姿がとても愛らしい。

「君、見ない顔だね!」
「負けないからね!」

 ピョンピョン跳ねながら言う可愛らしい仕草に、撫でたい衝動にかられながら頷いた。

「うん。私も負けないよ!」

 そして、試合開始のホイッスルが高らかに鳴った。




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