青空の下。広場にて。クラスメイトが全員集まっているなか、注目を浴びていた。
ちらっとゼアノートとエラクゥスを見ると、二人が無言で頷く。
すうっと深く息を吸って、吐く。ケアルのようにやれば、できるはず。
伸ばした両手の先を意識して、体内に宿っている魔力を感じる。
「――雷よ!」
現れろ!
命令を言葉にすると、魔力が身体から抜け、想像どおりの細い雷がピカッと落ちて、少し離れた場所の小石をバシッと焦がした。
「できた……!」
まだまだ小さな電撃だったが、具現化さえできればあとは威力をあげるだけ。
「やったな、フィリア!」
エラクゥスの喜ぶ声。
みんなの方を振り向くと、ゼアノートが微笑んでおり、エラクゥスも歯をみせて笑っていた。高揚で頬が熱くなる。熱心に教えてもらったので、成果を見せることができてうれしい。
「フィリア。おめでとう〜!」
駆け寄ってきたヴェルとぴょこぴょこ跳んで喜ぶ。
「ありがとう! みんなのおかげだよ〜」
「本を読んで魔法を使えるようになるのって、外の世界のやり方だと思っていたけど。がんばったな、フィリア」
バルドルにぽんぽん頭を撫でられて、えへへと笑う。
「ゼアノートとエラクゥスがたくさんコツを教えてくれたの。あと、ウルドも!」
「私は二人に比べたら、ほんのちょっとだけどね」
ウルドが照れたように笑う。
「とにかく、“いろいろ”と、うまくいってよかったよ……」
「早いって。まだまだ発展途上だろ?」
ヘルモーズが疲れたため息を吐き、ブラギが笑う。
「発展途上って、魔法のこと?」
「俺からは言えない。自分で考えるか、またゼアノートに聞いてくれ」
またブラギがそんなことを言って逃げたので、不満で頬をぷーと膨らませた。
魔法を使えるようになった。これで自分も戦える。役に立つことができる。
解散後、上機嫌で自室に戻り、返却すべき魔法の本を片付けていた。
感謝をこめて、みんなにささやかでもお礼がしたい。焼き菓子ならどうだろう。
「うん。クッキーなら材料も揃いやすそうだし、いいかも」
みんな、クッキーが好きだといいな。ウキウキしていると、ふとポケットが机に当たりコツンと硬い音がした。何か入れていたっけ。探ってみると白いゲームの駒がひとつ。
「やだ。教室から持って来ちゃったのかな?」
あのゲーム盤に触れたことはないが、近寄った時に入ってしまったのかも?
「あっ……?」
クラッと眩暈がして、思わず駒を強く握る。
教室の駒はいつも全てエラクゥスたちがきちんとしまって管理していたはず。この駒は本当に教室にあったもの?
本が机から落ちて、攻撃魔法について書かれたページが見えた。そもそも、キーブレードすら与えられていないのに、
「私、どうして攻撃魔法を使えるようになりたかったんだっけ?」
戦わなくちゃいけないから。どうして。敵はだれ。守られてばかりじゃいけないから。何と戦わなくてはいけないの。
「わからない。私、思い出せない……?」
そんな大切なこと、忘れるだろうか?
ならば、ケアルはどこで覚えた? たぶん、エアリスから。いつエアリスに教えてもらった? それは思い出せない。そもそも、どうしてエアリスと出会ったのだっけ? 彼女は別世界の住民なのに。
記憶が穴だらけだ。
「え、え? どうして覚えていないの……?」
焦燥に駆られる。実は、自分はとてもまずい状況にあるように思う。しかしどうしていいのかわからない。
急にとても怖くなって、クラスメイトの誰かに会って安心したいと思った。逃げるように、本も拾わず走って部屋の扉を開く。その瞬間、握っていた駒が強く輝いたため目を瞑った。
「ここは――――?」
次に目を開くと、そこは部屋に続く廊下ではなく――試練の塔の一室だった。
★ To be continue... ★
R5.3.20
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