今日は女の子だけでお茶しよう! と誘われて、ヴェルとウルドと街の中にある真っ白なテーブルを囲んでいた。ポカポカの陽気にそよ風が気持ちよい場所だ。遠くに広場が見える。
 女子だけで気兼ねなくおしゃべりできる環境というのは、なんだかいつもより解放感があって楽しくて、世間話からナイショ話、あれやこれの話まで一切退屈する暇もなく盛り上がっていた。

「そういえば、フィリア。魔法の本は全部読み終わったの?」
「それが、この本だけ難しくてよく分からないの」

 ウルドに答えつつ、肌身離さず持っていたゼアノートおススメの難解本を机の上におくと、ヴェルがそうっと手を伸ばし、ぱらっとめくってすぐに閉じた。

「うわ。タイトルから分かっていたけど、三行も読む気がしないよ〜」
「私も。分からなくて、すぐ眠くなっちゃうんだ」
「よ。何しているんだ?」
「あっ、ブラギだ」

 あはは、と笑っていたら、ちょうどブラギが声をかけてきた。「女の子だけでお茶会」とウルドが答え「男子にはナイショの話〜!」とヴェルが笑う。間が悪かったと思ったのか、ブラギは眉を下げてちょっと困り顔になった。

「ブラギも一緒に話さない?」

 空いていたイスを指してブラギを誘ってみると、意外そうな顔をされた。

「女子だけで楽しんでいたんだろ?」
「遠慮しなくていいよ〜」
「そうだ、ブラギ、この本読んでみてよ。わかる?」
「本?」

 ヴェルに腕を引っ張られて着席させられ、ウルドに本を見せられたブラギは怪訝な顔をして本をめくった。パラパラ、パラパラ……パタンと閉じる。

「これ、かなり難しいやつだろ。まさかヴェルが読んでいるのか?」
「私じゃないよ〜フィリアだよ〜」
「ゼアノートがおススメしてくれたんだけど難しくて」
「ふぅん、なるほどな」
「えっ、何がなるほどなの?」

 問うも、ブラギは答える代わりに観察してくるような眼差しを寄こしてきた。

「分からないなら、ゼアノートに教えてもらえばいいだろ?」
「この程度も分からないのかって、幻滅されないかな」
「そんなヤツじゃないし、むしろ、質問されるのを待ってると思うぜ」
「そうかなぁ……?」

 自力で理解する努力を尽くさず、教えてと頼ってばかりいたら迷惑にならないだろうか。目標に向かって努力している人を低いレベルの自分に長時間付き合わせるのは、どうしても申し訳ない気分になってしまう。

「あれは……」

 うじうじ悩んでいると、遠くの広場がチカッと光った。見やると、突然ゲートが開いて中から青年や少女たちがぞろぞろと現れる。クラスメイトたちよりも年上の子たち。

「上級生たちだ」
「外の世界から戻ってきたんだね」

 ウルドとヴェルも広場を見て、小さめの声で言う。
 上級生たちはただ歩いているだけでも、他の子たちとは何かが違う、キラキラとしたオーラに包まれているように見えた。外の世界から戻ってきた彼らが自信に満ち溢れた表情をしているからだろうか。
 彼らのいちばん後ろを歩く短い白髪の少女を見た時、カイリの髪型に似ていると思った。一見、淑やかな雰囲気だが彼女もキーブレードを勇敢に振るって戦うのだろうか──。

「あの人はヘズだよ。バルドルのお姉さん」

 見つめていることに気づいたのか、ヴェルが教えてくれたので合点がいく。

「そうなんだ。髪の色、バルドルといっしょ。優しそうなひとだね」
「他にも先頭を歩いているのがヘルギで、メガネをかけているのがヴォルヴァ。ひらひらしている服がシグルーン」

 ヴェルが指をちょいちょい動かし名前を連ねてゆく。

「顔に黒い布をつけているのがヴァーリ。その側の銀髪がヘイムダルで、ヘイムダルと話しているのがヴィーザルだよ」
「う、うん」

 たくさんの名前を一気に聞いてくらくらしていると、ふと、ヴァーリがこちらを見た気がしてギクリとする。この遠距離からの視線に気づくなんてあるのだろうか。ヴァ―リの視線を辿って他の上級生たちも足を止め不思議そうにこちらを見上げていたが、視線が合ったかまではわからない。

「おいおい。それよりもフィリア。早くゼアノートに聞いて来いよ」

 退屈そうな顔をしたブラギから本を返された。「今ならエラクゥスとゲームしてるだろ」と付け加えられて更に悩む。楽しい時間を邪魔していいのだろうか。どうせ聞くなら……。

「ねぇ、ブラギ。この本の内容が分かるなら教えて」
「えぇぇ。そんなにゼアノートに聞きたくないのかよ」
「『分かりませんでした』なんて言いにくいよ」
「ブラキ、本当は分からないんじゃないの〜?」
「そうそう。俺には分からないからゼアノートに聞いてくれ」
「棒読みだね」
「なんとでも言ってくれ。ゼアノートに恨まれたくないからな」

 ウルドにまでツッコミを受けて、ブラギは降参のポーズで席から立って去って行った。




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