城を進むたびに、頭の中で霧が晴れて行くようだ。
 昔、フィリアがディスティニーアイランドへやってくる前に、故郷にいた友だち──白いワンピースの女の子のことを思い出したことをきっかけに、どんどん彼女との思い出が蘇ってくる。お絵描きが好きな子で、人や植物、海、ありとあらゆるものを画用紙いっぱいに描いていた。素朴さがありながらも、彼女らしい柔らかな色使いと胸が温まるような雰囲気の絵が大好きだった。

「あいつらが言ってたな。『本当に大切な想いほど、心の奥にしまいこまれて思い出せなくなる』とか──『手に入れる代わりに失い、失う代わりに手に入れる』とかなんとか。最初は意味が分からなかったけど、こういうことだったのか」

 ドナルドたちに彼女のことを話すたび、芋づる式に思い出してゆく。笑顔がとても可愛かったこととか、触れたら折れちゃうほど華奢で、内気な子だったから、俺が守ってあげなくちゃって思っていたはずなのに──。
 グーフィーが目を細める。

「なんだかソラがうらやましくなってきたよ。僕たちも、忘れてた大切なこと、思い出してみたいなあ」
「行こう、グーフィー! どんどん進んで僕たちも思い出そう!」

 ドナルドが意気揚々と先頭を歩いていく。
 まだ名前は思い出せない。けれど、進んで行けばきっと全て思い出せるはずだ。期待を胸に、ドナルドへ続いた。





★ ★ ★





 朝――カーテン越しの陽光でパチッと目が覚めると、バネのように飛び上がる。パジャマを脱ぎ捨て、急いで身なりを整えて、扉を開けて廊下を走り出す。夜は不気味に感じる廊下だけれど、太陽の光でキラキラ輝いている時なら平気。本当は廊下を走っちゃダメって言われているけれど、誰も見ていないし。早くみんなに会いたいから走ってしまう。
 大広間の扉を開き、高い背もたれの椅子の前に立つあの人を見つけ、嬉しくなる。

「おはようございます、  =I」

 一目散に駆け寄って、あの人の太ももに抱きついた。大人だから筋肉質で固い! 大好きって気持ちのままぎゅうぎゅう抱きついていると、仕方がないなって微笑みと共に頭を優しく撫でてくれる。お兄さんとお姉さんの厳しい修行を見ているので、本当はこの人にこんな甘えかたしちゃだめなんだろうなってことは、子ども心になんとなくわかる。いまは一番年下だから許されている。だから気づかないフリして甘えている。
 背後の視線に振り向くと、自分より年上の子ども──茶髪の男の子と青髪の女の子がこちらを見ている。顔はよくみえないけれど、ふたりとも微笑みの裏に、ちょっとだけこちらをうらやましいって思っている顔をしている。

「  ≠ニ  ≠焉Aおはよう〜」
「おはよう、フィリア」
「おはよう。今日は寝坊しなかったんだな」

 からかう言葉に反射的にムキになって「いつも、寝坊なんてしてないもん」と言い返し、頭をぽんぽんと撫でられたことで、ぷーっと口を尖らせ黙る。

「フィリア、おまえも  ≠ニ  ≠フように整列するのだ。これより、朝の修行を開始する」





 ピチチ……かわいい鳥の声で目が覚める。カーテンの隙間から見えるスカラアドカエルムの景色。街をぐるりと囲む水面が朝日で黄金に輝いていてとても美しい。
 誰も見ていないので、ふあ〜と大あくびをひとつ。

「変な夢──」

 あの人も、少年と少女も目もとに白い霧がかかっているように顔が見えなかった。夢の中の自分は彼らの名前を呼んでいたみたいだけれど、覚えられなかった。
 知らない人たち。誰なのだろう。なぜこんな夢を見たのだろう。
 寝起き頭をふってみると、枕の側にゼアノートが薦めてきた本が一冊、開いたままになっていたことに気づく。昨晩、読んでいる間に眠ってしまったらしい。

「うう。この本だけ、すごく難しいよぉ………」

 難しい本を読んだせいで、変な夢を見たのかしら。
 ほとんど白塗りされたぼんやりとした夢だった。けれど、あんなふうに優しく頭を撫でててもらえるのって嬉しいから、また体験したいなとも思う。

「よし、起きなくちゃ」

 本を抱きしめながら、もう一度ふあ〜とあくびした。




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