城のすべてを見ることができる巨大水晶。眺めているラクシーヌのにやにや顔が反射していた。

「あらら〜? もう別行動しちゃってる」
「予定よりもずいぶん早いな」

 鍵の勇者と心の少女を引き離す作戦は念入りに数十パターン用意されていたにも関わらず、こちらが何のアクションも与える前に勝手に別行動を始めたため、肩透かしをくらった気分だ。

「ナミネ。これはあんたの仕業? 一刻も早く、自分の勇者の側から他の女を追い払いたかったってワケ?」

 白い部屋の隅っこで縮こまっていたナミネは過剰なほどビクッと震え、持っていた画用紙を抱きしめた。

「いいえ。まだ記憶の鎖を解き始めたところだから──」
「ふうん。じゃあ、あの子自らソラから離れていったってこと? まあ、こっちとしては都合がいいけどさ」

 あんなにソラにベッタリだったくせにね、とラクシーヌは退屈そうに水晶を睨む。

「──それで、誰が行く?」

 水晶を眺め微笑んでいるマールーシャへ話をふると、キザな笑いが返ってきた。

「彼女の捕獲は最重要任務のひとつ──もちろん、私が迎えに行こう」
「おいおい、手柄をひとりじめか?」
「おまえには、先ほど出番を譲ってやったではないか」
「そう言うなら、次の順番は私じゃない?」
「必要がきたら呼ぶ。おまえたちはそれまで待て」

 マールーシャはフードを丁寧にかぶりなおすと、闇の回廊の中に消えた。
 頬をぷーっと膨らませたラクシーヌを放って、水晶の中に映る半べその少女を見つめなおす。あの頃から姿は変わっていないのに、中身は全く変わってしまったフィリアを──。





★ ★ ★





 フィリアがいきなり出口へと走り出したので驚いたし心配だったが、安全な場所で待っていてくれるなら安心だ。要はさっさと城の中を冒険して、リクと王様を見つけてフィリアを迎えに行き、カイリの元へ帰ればいいのだ。
 フィリアのことはひとまず置いておいて、みんなでこの城のことについて考える。

「変な城だよね。記録が消えるなんて」

 ドナルドがため息と共にきりだしたので、さきほどから考えていたことを打ち明ける。

「たぶん、記録だけじゃない。さっきグーフィーが前に行った城のことを話したよな。でも俺たちみんな、思い出せない。それって──ひょっとして、俺たちの記憶がなくなってるってことじゃないか?」
「記憶? 思い出が?」

 ドナルドがグワワ!とクチバシをあける。またジミニーがピョコッと跳ねた。

「思い出した! アクセルの仲間が言っていたぞ! 『ここは手に入れる代わりに失い、失う代わりに手に入れる場所』だと! あれは記憶をなくすという意味だったんだ!」
「先に進めば思い出を忘れる──だから“忘却の城”なのか!」

 まさか、そのままのネーミングだとは。ドナルドがすっかり不安げな表情になる。

「上に行くと、思い出が消えるの? そのうち、何も思い出せなくなるってこと?」
「リクやカイリのことも──」
「やっぱり帰る?」

 今からでも、フィリアを追いかけ合流しようか。
 そんな考えがよぎった時、グーフィーが「大丈夫だよ!」とハッキリ言いきった。

「行った場所や見たものは忘れるかもしれないけど、友達のことは忘れないよ」
「そうかなあ──」

 ドナルドは半信半疑のよう。グーフィーが続ける。

「ねえ、ソラ。ハートレスになった時、僕たちのこと忘れちゃった?」
「忘れるわけないだろ」

 即答すると、グーフィーは満面の笑みになった。

「ほらね。どんなことがあったって、忘れないってことだよ」

 一度身をもって体験したことなので、より納得できた。

「だよな。ありがとう。グーフィー」

 すると、さっきまでしょげてたドナルドが尾っぽまでピンと伸ばして意気揚々と歩き出す。

「うん。友達のこと、忘れるはずないよ。もう怖くないぞ! みんな、行こう!」

 ずんずん先頭を進むドナルドに向かって、頭の後ろで手を組み言ってやる。

「俺がハートレスになった時、ぜんぜん気がつかなくて、さんざん叩いたのは誰だっけ?」

 途端に動きを止めて、ジト目で振り向くドナルド。

「そういうことは、忘れていいんだよ!」

 真っ赤な顔でグワグワ騒ぐドナルドが面白くて、しばらくみんなで笑いあった。





 To be continue... 






R4.10.15




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