ガードアーマーを倒したとき、物音を聞きつけたのかシドがひょっこり覗いてきた。再会を喜んだソラがシドに話しかけたけれど予想どおりの反応で、結局リクもいないようだし、少しガッカリしながらレオンたちの元へ戻ることにした。
ユフィは、まるで自分のことのように肩を落として聞いてくれた。
「……そっか。友だち、みつからなかったんだ」
「うん。この街には、いないみたいだ。でも、この城のどこかにいる。そんな気がするんだ」
ソラの言葉に、レオンやユフィから説明を受けたシドがまた首をひねる。
「城? おかしなことをいいやがる。まるでこの街が、でかい城の中にあるみたいな言い方じゃねえか」
「たぶん、そういうことなんだろう。俺たちには理解すらできないが……ソラたちにだけは見えているんだ。この世界の、現実が」
初めは顔を青くしていたレオンは、今やすっかり馴染んでいた。ソラがちょっと下を向く。
「そうなのかな……」
「大丈夫さ。おまえなら、どんな現実だって乗り越えられる。おまえの記憶がないはずの俺でも心でわかる」
「レオン……」
レオンと談笑するソラを横目に、こっそりエアリスに話しかけた。
「エアリス。あのね、ケアルを教えて欲しいの」
もっと早くに頼っておけばよかった。エアリスはちょっと目を丸くした後、にっこり微笑んで「いいよ」と手を繋いで魔法を授けてくれた。
思い出すと、どうして忘れていたのかしらと思うほど、ケアルはすんなり自分の力として蘇った。早く攻撃魔法も覚え直したい。
「じゃあ、そろそろお別れだね」
ユフィとシドが声をかけてくる。
「がんばってね、ソラ。フィリア」
「事情はよくわからないねえが、元気でな」
こんな風に、またいつか会えるかな。バイバイと手を振り合って、レオンたちは1番街へ、自分たちは3番街へ続く道へ進もうとしたら、最後尾を歩いていたエアリスが戻ってきた。気づいたソラが足を止めたので、つられて彼女を見る。
「どうしたの?」
「正しい答えか、わからないけど。感じたこと、伝えておきたくて。この街を作り出したのは、ソラ。君の記憶……でしょう?」
「うん、カードをくれたやつが、そう言ってた」
ソラの横に立ちながら、あの黒コートの男はマーリン様のようにすごい魔法使いなのだろうかと考えていた。一方、エアリスはそっと目を伏せる。
「それなら……この街も、私たちも、たぶん、幻」
「幻!? 嘘だろ!? エアリスはここにいるし、街だって、ここにあるのに!」
ソラから「フィリアだってそう思うよな?」と同意を求められたが、驚きのあまり頷くことしかできなかった。エアリスは苦笑する。
「本当の私たちじゃない。知るはずのこと、知らないし。知らないはずのこと、感じるの」
もし自分がエアリスの立場だったら、自分が偽物なんて事実をすぐに受け入れられるだろうか。
あまりにもエアリスが淡々と話すので、どんな顔をすればいいのかわからなかった。
エアリスがソラを見つめる。
「ソラ……記憶に気をつけて。この先。ソラの記憶から生まれたたくさんの幻に出会うと思う。記憶の幻影が、ソラをまどわすこと、あると思うから」
ソラは腕を組んでしばらく考えたそぶりをした後、首をひねった。
「うーん……もうちょっとわかりやすく説明できない?」
それに、エアリスはちょっと寂しそうに笑う。
「ごめんね。私も幻だから……真実には手、届かないの」
「エアリス……」
「そんなこと言うなって。なんか……さびしいよ」
声、仕草、言葉遣い、香り、ぬくもり、笑顔、まなざし、本物のエアリスと何もかもが同じ。エアリスだけじゃない。レオン、ユフィ、シドだって。
「だめだよ。幻に気をとられて、大切なもの、見失わないで。」
「……うん」
(よく分かっているかは別として)ソラはエアリスに頷いていたが、自分には難しいと感じた。例えばいまこのエアリスが急に苦しみだしたとして、幻の存在だからと放っておけない。きっと本気で心配してしまうだろうし、救うために手を尽くすだろう。
「ソラ〜〜フィリア〜〜!」
「そろそろ出発しないかい?」
「あ、待たせちゃってごめんね」
先に戻り道を進んでいたふたりに呼ばれ、振り向く。
「そうだな。じゃあ俺たち、行くよ──」
ソラと一緒にエアリスの方を向くと、もう彼女はいなかった。えっ? と思って1番街の方面を見ても姿がない。
「エアリス? エアリス!」
「エアリスが、どうかしたの?」
忽然と消えてしまったのに、グーフィーたちは気にしていないようだ。
あちこち見回していたソラが、慌ててドナルドたちに説明する。
「エアリスがいないんだ。さっきまで、ここにいたのに!」
「えぇと、テレポを使ったとか……?」
「エアリスだったら、レオンたちと一緒に帰っていったじゃないか」
「え!?」
グーフィーの返答にソラの動きがピタッと止まる。
「ソラたちが誰もいないところでボーっと立ってるから、心配してたんだよ」
「えっ? 誰もいないところって……」
思わずソラを見ると、ソラもポカンとしていた。
「幻って、こういうことなのか……?」
そのソラの言葉に、なんて返せばよいか分からないまま──ただただ、謎めいた不思議なこの城から早く出たいという気持ちは更に強まった。
★ ★ ★
アグラバーへ調査任務に出ていたロクサスが倒れた。シグバールが小脇に抱えてきて、とりあえずベッドに放り込まれたものの、身体は健康そのもの。問題があるとしたら、心と記憶の方であると診断がなされた。
報告をしたらゼムナスが見舞うというので共にロクサスの部屋へ。最近やっとまともにハートの回収ができるようになってきたと思ったら──寝返りすらせず眠り続けている姿は、本当に抜け殻のように見えた。
「やはり、ナミネの影響のようです」
「目覚めるのか?」
「勇者の記憶がすべてはがれれば、ロクサスは帰ってくるという報告を受けています」
「すべては忘却の城次第ということか」
「計画どおり、シオンがキーブレードを使用できるようになりましたので、しばらくはシオンにハートの回収をさせます」
ゼムナスは食い入るようにロクサスを見つめている。
「それで、部屋の捜索は?」
「そちらは思うように進んでいないようです」
悪い報告に、ゼムナスは「まぁ、よい」と息を吐いて、瞳だけでこちらを見た。
「まずはフィリアの確保を優先させろ」
「はい」
必要な報告が済んだが、ゼムナスはまだ動かないため先に退室する。
部屋から出る寸前に、ゼムナスが「おまえはまた眠るのか……」とロクサスへ話しかける声が聞こえた。
★ To be continue... ★
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