レオンと特訓したこともあり、ソラは戦闘のカンをすぐに取り戻してきたようだった。道中現れるハートレスたちを倒す時間が早くなってきている。
「どうせ街じゅうを探すなら、シドにも会ってみようぜ」
「でも、シドさんも、レオンさんたちと同じ状態じゃないかな……」
「それでも。ひょっとしたら覚えてるかもしれないだろ?」
「じゃあ、仔犬たちにも会っていきたいな」
「うん。101匹もいれば、一匹くらい覚えていてくれるかも」
懐かしい人々──あんな別れ方だったから、ひと目元気な顔を見たかった。
「あーあ。前みたいに、リクもひょっこり出てこないかな〜」
「そうだね。あと、王様も」
ソラとわいわい会話をしながら二番街を歩いていると、鍵穴のあった噴水前の広場にさしかかったところで、唐突にガシャガシャ! と天から鎧が降ってきた。
「なんだ!」
慌ててソラが前に出てキーブレードを構える。床に転がった鎧たちはふわふわ浮き上がり、大型のハートレスのガードアーマーとなった。
「フィリア、下がってて!」
「ソラ、気をつけて!」
無力な今では小さなハートレスさえ脅威なのに、こんな大きなハートレスに追いかけられたらもっと絶望的だ。
ソラに指示され、慌てて物陰を探し邪魔にならない場所に隠れた。
★ ★ ★
招集をかけて、真っ先に現れたのはレクセウス。現れるなり一瞥はくれるものの、むっつり口を閉ざしているため、いつもの注意を繰り返した。
「あいさつの一言もなしですか。レクセウス」
想定内のことだが反論すらない。毎度同じことを言われて改善しようと思わないのだろうか。
研究に没頭していたヴィクセンも、今回のことには興味が惹かれたようですぐに現れた。
「何が起きたのだ、ゼクシオン。説明してもらうぞ」
「こちらもあいさつ抜きとは──嘆かわしい。機関の結束はどこへ行ったのでしょうね」
「貴様、ナンバー6の分際で──」
幼少の頃から、親しき間でもちゃんと挨拶するよう教えてきたのはエヴェン──ヴィクセンのくせに。機関の新人から軽視されてしまってから、元々頑固だった性格が更に意固地になってしまった。それに自分は知っている。ヴィクセンはナンバーというより自分が尊敬できるか否かが重要なのだ。現にレクセウスのナンバーはヴィクセンの4より下の5だが、彼から「よせ、ヴィクセン」とたしなめられると素直に従う。
レクセウスが、場を仕切りだした。
「話せ、ゼクシオン。何を感じた?」
「“匂い”ですよ。地底の最下層に、ふたつの匂いを感じたのです。ひとりはマレフィセント──」
途端にヴィクセンが口をはさんでくる。
「あの魔女は闇に取りこまれた。闇の世界から自力で戻るなどありえないことだ」
「最後までお聞きなさい。僕が感じたのはマレフィセントによく似た偽物の匂いです。残念ながら、よく調べる前に偽物は消えてしまいました。もうひとりに倒されて」
「何者だ?」
問うてきたレクセウスを見る。
「正体不明ですが──彼の匂いは、我らの指導者に極めて近いのです」
「しかし同一人物ではない。実に興味深い」
ヴィクセンがニヤリと笑った。これは彼が興味をもった時の顔だ。
「で──どうします?」
こういう時、興味でしか動かないヴィクセンではなく、冷戦沈着のレクセウスの判断の方がまともだろう。
レクセウスは一度閉じた目をゆっくりと開いた。
「しばし見守るとしよう」
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