噴火口を下り、火口を下り──最後にクジラの腹部ほどの広さの場所に出た。交じり合う世界。
 これまでのどこよりも闇の気配が重苦しいほどに濃くて、ダークボール、インビジブル、エンジェルスター、ベヒーモス等の強敵を中心としたハートレスの猛攻が続いた。倒しても、倒しても湧いてくるハートレスたち。このまま永遠に戦い続けて先に進めなかったら──そんな心配が浮かぶほどの戦いを乗り越えて、やっと波が途切れた時、ホロウバスティオンで見たのと同じマーク形の入口を発見し、みんなで滑りこんだ。
 どうせ先もハートレスの巣かと思いきや、澄んだ空気に驚いた。淡く降り注ぐ虹色の光たち。奥にはいつか夢で見たのと同じ、豪奢な扉があって、この先は特別な場所だと教えてくれているようだった。

「ここにはハートレスが出ないみたいだね」
「ちょうどいい。ここでちょっと休もうよ」

 すでにエーテルやポーションを飲みながら、ふたりが言う。頷くと、エリクサーを渡された。

「そうだな」

 ジミニーも珍しくフードから出てきていた。みんなで視線を交わし合う。恰好はボロボロだったけど、恐怖とか怯えなんてない。笑顔で頷きあった。
 一気飲みをすれば、スッと体が楽になる。この先でフィリアとリクが待っていると思うと、のんびりなんてしていられない。

「行こう。……あれ?」
「どうしたの?」

 扉の取っ手に触れたときだ。訊ねてきたドナルドを振り向く。

「何か聞こえないか?──ホラ!」

 気をつけて……安らぎの場所は、ここが最後だ。

 いつかも、夢で語りかけてきたあの声。

 この先にはもう、キミを守る光はない。だけど恐れないで。

 ドナルドが足をパタパタさせている。

 キミの心は、何よりも強い武器さ。だから恐れないで。

 グーフィーも頬をぽりぽり指でかいている。

 光への扉を開くのは、キミなんだ──。

「なんにも聞こえないってば」
「おかしいなあ……聞きおぼえのある声だったけど……気のせいかな」

 ドナルドがジト目で、見上げてくる。

「ちょっと休んだ方がいいんじゃないの!?」
「さっき休んだから、大丈夫だってば!」

 きっとこれが最後なのに、しまらないなぁ。ドナルドに言い返しながら、銀色に光るドアノブを掴み、思い切り開いた。
 扉の隙間から飛び込んでくる眩しい光、潮の匂い、強い陽光、波の音──。恋しいと思う暇もなく戦ってきたが、忘れるわけがない。故郷の海。ずっと毎日のように遊んでいた島の風景。

「ここは──俺たちの島!?」

 一瞬ポカンとしたけれど、本島だけがぽっかり無くなっているため、すぐに偽物だと気づく。
 フィリアは。リクは。アンセムはどこだ──。懐かしさに胸の奥がぎゅっと締め付けられる感覚に堪えながら探索すると、秘密の場所の側で声が響いてくる。

「この世界は──繋がった」

 あの時のフードの男の言葉だ。いまならアンセムの声だったのだと分かる。

「なんだ!?」

 グーフィーが叫んだ。パオプの木があった離れ島が消えたのだ。

「闇と繋がった世界──まもなく光を失う世界──」

 アンセムの姿を探すも見つからない。
 偽物の世界は歩く度、足元で虹色の光がホログラムのように舞う。

「おまえには何もわかるまい」

 美しく輝いていた青い海が、みるみるうちに毒々しい紫色に変わってゆく。

「おまえは何も知らない」

 地が揺れ始め、世界が壊れてゆく。

「何も知らない者が何を見ても──そう、何も理解できまい」

 あっという間に、島の姿は無惨なものに成り果てた。砂浜はガタガタの崖になり、草木も気持ちが悪い色へと変貌している。
 故郷はすでに闇に落とされた。そしてまた、傷つけられる様を見せられた。
 何のつもりでこの光景を見せたのか。怒りを覚えながら見回すと、荒れ果てた砂浜の上に立つ、あの不気味なスーツ姿のリクを見つけた。
 近寄ると、振り向かずにアンセムの声が言った。

「見るがいい、この小さな世界を。海に囲まれた牢獄と同じ。自由な心の持ち主には狭過ぎる。だからこそ、この少年は新しい世界を求めて──あまたの世界を渡る力を求めて──心を闇に染めたのだよ」

 振り向く瞬間はリクだったが、闇を纏って、アンセムの姿になる。

「リクッ!!」

 思わず手を伸ばしたが、アンセムは「無駄だ」と吐き捨てた。

「おまえの声は届きはしない。心はもう、闇に帰った」

 アンセムは続ける。

「世界は闇に始まり、闇に終わる。心も同じだ。心に芽生えた小さな闇が、やがて心のすべてをのみこむ。それが心のあるべき姿」

 目を離していなかったのに、一瞬でアンセムの姿が掻き消え、背後に現れた。

「あらゆる心は、闇に帰るべきなのだよ」

 ハッと気づいて体勢を整える。アンセムは余裕ぶっていて、仕掛けてこない。

「そう。心の真の姿とは────闇だ」
「闇じゃない!」

 アンセムが「ほう?」と初めてこちらの言葉に耳を傾けた。

「心は弱いかもしれない。闇に負ける時だってある。でも──闇の奥には光があるんだ!」

 アンセムの様子が変わった。宙に高く浮かび上がり、改めて腕を組んで見下ろしてくる。

「その光もまた、闇に溶けるのだ。無知なる心よ。暗闇で眠るがいい!」

 アンセムの背後に闇の化身ような大きな男が現れた。口を包帯で塞がれている。男は下半身こそないが、筋肉隆々のアンセムよりも更に太い筋肉の腕で殴りかかってきた。




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