「──う」

 また何度目かの、最悪な状態での目覚め。早々にアンセムの「目覚めたか」という声を聞き、もっと最悪な気分になった。
 やっぱり魔力も体力も回復していない。

 おお、心より生れ落ちたる心なき闇の子ら。なんじらすべての世界を食らい“果てる世界”と成さしめよ。 


「ここは?」

 どこを見ても何もない闇の中で、唯一、自分たちの正面に大きく、純白でとても美しい扉が見えた。色ガラスまで嵌められて、荘厳な場所に相応しい。

「あれが何かわかるか」

 初めて見るものだ、分かるはずがない。
 それなのに、なぜかとても焦った気分になった。あれに触れてはいけない。見つかってはいけなかったのに。暴かれてしまうことが恐ろしい。

 なんじらすべての心を集め、大いなるひとつの心とせよ。
 ひとつにしてすべての心。
 すべてにしてひとつの心。
 

「キングダムハーツへと続く扉だ」

 すなわち王国の心“キングダムハーツ”
 

 アンセムの満足げな声に、頭の中がくらくらする。キングダムハーツなんて知らないのに、その単語を聞くと自分の胸の奥がそわそわする。
 アンセムへ訊ねた。

「キングダムハーツって、いったい何なの?」

 それこそは大いなる心。
 秘めたるは大いなる闇。
 光を封じるひとつの闇へ、今こそ帰れ闇の子よ。
 

「キングダムハーツは、大いなる闇だ。この世のすべてのものは闇から生まれた……」

 “キングダムハーツ”を開くは、闇を持たざる心の力。
 闇なき心は世界に7つ。
 7つは“鍵穴”、そして“鍵”
 

「分からない。そんなものと私が、どうして繋がっていると言うの」

 こちらの疑問を、アンセムはフンと笑うだけだった。

「私がいくら説明しても、きっといまの君には、到底理解できないだろう」
「それなら、キングダムハーツを手に入れて、どうするつもり?」

 この質問はアンセムには好感触だったようだ。彼の口端がニィと吊り上がる。

 ふたりが闇の扉を結ぶ。
 ふたつの“鍵”が扉を結ぶ。
 光を封じる闇への扉。
 光ある者を通さぬ扉。
 

「世界をあるべき姿に戻すのだ」

 闇より生まれし闇のみが、扉をくぐり回帰する。
 心中の闇の中心へ。
 

「あるべき姿?──まさか」

 おお、心より生れ落ちたる心なき闇の子ら。
 

「この世のすべては、闇に返るべきなのだよ」

 闇の扉が開く時まで、ありとあらゆる心をむさぼれ! 




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