かつてないほどの数のハートレス船を撃ち落としながら闇の奥へ進む。とても笑顔になる気分じゃないけれど、みんなで強引に作り笑顔で乗り越えた。
 たどり着いた先に待っていたのは、果たして世界と呼べるものなのか。崩れかけた破片をかき集めたような世界だった。
 着陸してほら穴から抜け出ると、岩石がポツポツ転がっているだけの何もないところだった。地平線にぼんやりと輝く沈まない光が、紫色に雲や岩を染めている。果ての魔空。
──これがハートレスの世界。闇の生まれる場所。世界の終わり。
 ひどく静かな世界だ。虫や動物はおろか雑草すら生えておらず、生を感じない。

「アンセムをやっつけたら、元に戻るよな」
「もちろん!」

 ドナルドがいつもの調子で答えてくれる。

「でもさ、そうしたら元に戻った世界は離れ離れになっちゃうんだろ。ここにいる俺たちはどうなっちゃうんだ?」
「エッ? うん──」

 ドナルドが返答に詰まる。この世界にアンセムを倒したら自動で故郷にワープできる便利機能なんて……。

「ここはハートレスの世界だから、消えてしまうかも」

 グーフィーが怖いことをさらっと言うのでエッ! とドナルドと彼の方へ振り向く。発言に似合わずグーフィーはいつものようにニコニコ言った。

「でも、平気だよ。世界が消えても、僕らの心は消えない。心があれば、ともだちのところに帰れる。僕は信じてるよ」
「うん、そうだな」

 リクからキーブレードを取り返した時、その力のおかげで助かったのだから。
 そっとズボンのポケットを探る。カイリから預かったサラサ貝のお守りが勇気を奮い立たせてくれた。彼女と固く約束したのだ。友だちを助けて、みんなで彼女の元へ戻ると。

「たいせつなお守りなんだから、必ず返してよ」

 お守りを貸し与えられた時に見た、カイリの笑顔を思い出す。

「必ず、返すよ」

 歩き出すと、薄く溜まっている水がぱちゃぱちゃ鳴った。あれほどてこずったホロウバスティオンにいるハートレスなんて比じゃないくらい、大きくて強力なハートレスたちが道を塞いでくる。

 奥へ──更に闇の奥へ──。

 肌寒く、雪が積もった道を進む。尖った岩だらけの巨大クレバスは底が見えない。
 巨大な空間に、ジミニー含め四人ぽっち。
 グーフィーが寒そうに白い息を吐いた。

「フィリアとアンセムは、どこにいるのかな?」
「僕にいい考えがあるぞ。いちばん危険そうなところに思いきって飛びこむんだ!」

 自信満々のドナルドへ、そんな適当でいいのかよ、とみんなでちょっと笑った。
 足場を選びながら底へ。見上げても始めに立っていた足場が見えなくなるほど降りたとき、緑色に輝く穴が現れた。フィリアにかけてもらったケアルみたいに綺麗な光だ。
 穴の中へ飛び込むと、雪の世界から一転、不気味な炎がごうごうと燃え上がっている小さな広場に立っていた。周囲にはこの場所と同じような小さな広場が10個ほど闇の中に浮かんでいる。

「なんだこれ」

 近寄れば炎は全く熱くなくて、触れてみたら更に別の空間に引きずり込まれた。
 悪い夢を見ているのか。そこはトラヴァースタウンの三番街の広場で、初めてドナルドとグーフィーに出会った場所だった。

「あれ、なんでこんなところに?」

 この世界とトラヴァースタウンが繋がっているはずがないのに……?
 不思議な現象に頭の中がハテナになっている間にも、次々とハートレスが湧き出てくる。とりあえず現れたもの全て倒すと出口が出現したので脱出し、次の広場への道へ進む。それぞれの広場でワンダーランド、オリンポスコロシアム、ディープジャングル……これまで旅した世界の一部分へ飛ばされ戦わされた。

「まるで世界の牢獄みたいだ……」

 この場所への感想を呟いていると、最後にどこかの研究所らしき部屋に出た。あちこちがパイプだらけで、実験器具の中では色のついた液体がポコポコ泡をたてている。中でも一番気になったのは、棺桶みたいなものがいくつか取り付けられた大きな機械。部屋の中央に置かれていて、それの操作ボタンらしき場所に、アンセムレポートと同じクセのある文字で詩のような文章が刻まれていた。




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