闇の中に連れ込まれてから、目覚めたり、気を失ったりを繰り返していた。
全身、傷だらけ。熱があるのか意識は常にぼんやりと、ふわふわしていた。闇の中にはいろんな力や心が渦巻いているようだ。魔力が一向に回復していない。目覚める度に自分を運んでいるのが闇の魔物だったりアンセムだったりしていて、時間の感覚もなくなっていた。
──これから、どうなるのだろう。
気味が悪いほど、アンセムから優しく、丁重に扱われていた。体の力がうまく入らなくて、リクの体を奪った男の胸板に頭を預けて抱えられている状況は屈辱だ。
見えはしないが、闇の奥に数多の魔物たちが潜んでおり、殺気だった瞳で自分を狙っているのを感じる。しかし強者であるアンセムを畏れて襲ってこない。噛みついてでもこの男から逃れたいが、離れた瞬間、他の闇に喰われてしまう状況に打つ手がなかった。
「君に触れているだけで分かるぞ。キングダムハーツへと続く、とても強い繋がりが──」
何度目かの目覚めのとき、低い笑い声と共に言われた。
キングダムハーツとは何か知らないが、この男が求めているのならば与えてはいけないものだろう。それと、確かにこの果てのない闇の中に、自分と繋がる存在を感じていた。大きくて、懐かしい、とても大切な存在が。何かは分からない。すごく会いたい。でも、会ってはいけないもの。
これ以上、闇の奥へ進みたくないのに。意識が混濁し、薄れてゆく。
「ソラ……」
★ ★ ★
テラとの会話の直後闇に飲みこまれて、気がつけばミッキーが目の前にいた。あの後、闇に飲みこまれ、浮かんでいたところをミッキーに助けてもらったらしい。
互いにこれまでのいきさつを話し合い、光の世界では十年ほどの時が経っていること、世界がかつてないほど闇の脅威に晒されていること、十年もの間、ミッキーはテラやフィリアを見つけられなかったことを教えてもらった。
テラに憑いていた男は、フィリアを見つけたと言っていた。だから、フィリアも光の世界にいるとばかり思っていたが……。
「だけど、最近、またフィリアとのつながりを強く感じるようになったんだ」
「フィリア……」
テラだって、いまもアイツと戦っているはずだ。気落ちするニュースばかりに囚われてはいけない。こうやってミッキーと再会できたように、諦めなければ、きっと再会できると信じよう。
ミッキーが闇の中に存在する仄かな光へ手を伸ばしながら呟く。
「鍵が導く心のままに」
「ずいぶん古い言葉を使うんですね」
「大昔のキーブレード使いたちが交わした言葉。今はこの言葉を信じてみたくなったんだ」
あてもなく、幻影に惑わされていた時とは違う。この闇の中でも目的を見つけ──なによりも、ひとりぼっちじゃないことで、かつての自分を取り戻せたような気分だ。
「さあ、行こう!」
「はい!」
強く頷きあい、目の前に広がる灰色の道をミッキーと歩き出す。
原作沿い目次 / トップページ