幼い頃の記憶。初めての小さな冒険。ソラとふたり、ずっと気になっていた怪獣の唸り声がする洞窟の中へ入ってみた。
 結局、洞窟の中には何もめぼしいものなんてなく、唸り声も風が吹き抜ける音だった。
 この数分の冒険に、肩透かしだったとガッカリするソラと自分の感想は違っていた。確かに結果は期待したものではなかったけれど、大人に頼らず自分たちだけで未知へ足を踏み入れた緊張感、秘密を解き明せる期待の高揚感、友だちが隣にいるからこそ出せた勇気──そういうものに価値を感じた。

「なあ、ソラ」

 興味をなくし、早々に洞窟を出ようとするソラへ話しかける。

「ん?」
「おれ、もっと強くなる。そしたらいっしょにこの島から外へ出よう。こんなちっぽけな冒険じゃない。本当の冒険をしよう」

 ひとつ年下のソラは「うん、それもいいけどさあ」と退屈そうにまた外へ歩き出した。

「今すぐ面白いことないのかなあ。そういえばさ、このあいだから村長さんちに女の子がいるだろ? あの子ってさ、あの流星雨の夜に──」

 ふと、何かに呼ばれた気がして洞窟の奥を振り向く。先ほどまで何の変哲もなかったはずの木の板に、金の鍵穴がついていた──。




 闇の回廊から出てホロウバスティオンに戻ってきたというのに、未だ胸が押しつぶされそうに苦しかった。涙目で何度も心配してくるフィリアをカイリと共に大広間にいるよう説得したところで、マレフィセントから礼拝堂へ呼び出される。
 フィリアの前では強がれていたが、ついに耐え切れず膝をつく。過去に風邪をこじらせた時と同じく意識して息を吸わねばならなかった。魔女から闇の力を与えられる前、モンストロから船に移動したときは、こうはならなかったのに。

「船も使わずに、あの子たちを連れてくるとは無茶をしたね。闇の力に頼りすぎると、心を闇に喰われてしまうよ」

 目の前にマレフィセントが立って、無感情な瞳で見下ろしてくる。

「気をおつけ。闇の道を無防備に多用すれば、次第に闇が心に入りこんで、いつしか闇に溶けてしまうからね」
「それなら、どうしてフィリアは無事だったんだ?」
「以前、私と会った時と服が変わっていた。あれには闇から身を守る魔法がかけられている。それがなかったら、ここへたどり着く前に、闇に溶けていただろうね」

 安堵した後に、拳をきつく握りしめる。フィリアが無事だったのは偶然で、死なせていたかもしれない己の力不足が悔しかった──まだまだ足りない。もっと知識と力がほしい。
 城の入口方面から獣の唸り声が響いてきた。マレフィセントが鼻で笑う。

「生き残りさ。住んでいた世界が消えても心を失わない者もいる。プリンセスを追い求める心の力でここまでたどりついたようだね」

 闇の力に頼らずたどり着けるなんて、自分にはない力を持っているヤツなのか。こちらのいらだちを察したマレフィセントは楽しそうに言った。

「でも安心おし。しょせん、おまえの敵じゃない。おまえには、力があるんだ。」
「力──?」
「そう。おまえ自身が気づいていない力さ。さあ、リク。教えてあげるよ。おまえの本当の力を──」

 マレフィセントが両手を広げると、彼女の魔力に包まれる。とても不快で気味が悪いけれど──目を閉じて身をゆだねた。





 To be continue... 




R4.1.22




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