突然、船長室の床の一部が乱暴に突き上げられた。隠し階段から飛び出してきたのは怒り顔のソラ。唐突な再会にギクッとする。

「待てよ、リクッ!」

 一方、ソラを見たリクの背後に闇の穴が生まれる。まるで空間をくりぬいたかのような黒いゲートは、中で何かの力が渦巻いている。
 カイリを抱いたリクが足を後ろへ──闇の中に踏み入った。リクから強い視線を向けられ、自分もあの中へ入らなければならないのだと理解する。

「フィリア!?」

 リクの元へ小走りすると、ソラもこちらへ来ようとした。ソラの手に掴まれそうになり、彼の指が腕にかすめた瞬間、その手が誰かに振り払われる。見ると、自分とソラとの間に真っ黒なソラの影が具現していて彼の前に立ちふさがっていた。
 リクとカイリの姿が闇の中に消えるが、ゲートはまだ残っている。自分が入ってくるのを待っている。
 ソラは阻む影──アンチソラをきつく睨み、キーブレードを構え技を放とうとしていた。

「フィリア。そこは危ないから、早くこっちに!」
「……ごめんね」
「えっ?」

 目を丸くしてポカンと口を開くソラを視線が合う。彼のフードからジミニーが顔をのぞかせ、背後にはドナルドとグーフィーも並んでいた。

「私、もうみんなと一緒にいられないの」

 彼らに背を向け目を瞑り、思いきって闇の中へ飛び込んだ。空間が変わる間際、ソラの声が聞こえた気がした。
闇の中は真っ暗なのに、自分や相手の姿が見える不思議な場所だった。どちらを向いても果てが見えない。想像もできないほどとても広い空間のようだ。

「泣くほど後悔しているのか」

 待っていたリクに小さな声で訊かれた。彼まで泣きだしそうな表情に見える。
 みんなに何も言わずに逃げてきた。きっと傷つけたし、心配させるだろう。けれどもう戻れない。
 涙をぬぐい、自分に言い聞かせるように答える。

「こんな状態のカイリを放って、これ以上ソラに守ってもらうなんてできない」

 しかし、厄介な体質はここでも災いを呼んだ。数歩も進まないうちに、周囲の空気がざわめきだす。闇の奥から数えきれないほどのハートレスが集まりだして、ひたとこちらを見つめていた。

「おまえたちのことは呼んでいない。下がれ!」

 リクが命令すると、小さなハートレスたちは言うことを聞いたけれど、大きな体のベヒーモスやダークサイドはこちらへ近づき続ける。

「来るなと言ってるだろ!」

 再度リクが命じたが、大型のハートレスたちはやはり止まる様子がない。どうやらこの闇の空間の中、リクよりも強大な闇への制御がうまくいっていないようだ。
 仕方なくリクがカイリをおろして剣をぬく。無茶だと思った。リクがいくら強くてもハートレスが多すぎるし、先ほどからリクの顔色がどんどん悪くなっている。

「フィリア。下がっていろ」
「リク、私も戦う。この数をひとりなんて」
「平気だ。フィリアはカイリを守ってくれ」

 リクはまず頭の角に雷をたくわえた巨大なベヒーモスに向かって行った。大木のような足の踏みつけを躱し、軽々と背に登ってその角を折る。

「すごい……!」

 リクはベヒーモスを倒した後も、ダークボールを数体破裂させ、インビジブルと切り結んだ。しかし、ダークサイドが衝撃派を起こした時に、回避し怪我をしていないはずなのに膝をついてしまう。胸元を押さえ、ぜいぜい荒く息を繰り返した。彼の青白くなった頬から汗が滴り落ちる。

「リク!」

 危険だ、助けなくちゃ。一歩踏み出したとき、リクを見ていたハートレスたちがいっせいにこちらを見た。星の数より多い瞳に凝視されて、ヒッと足がすくむ。

「やれやれ。仕方ないね」

 どこからともなく余裕ぶった女の声がした。唐突に目の前で黄緑色の炎が激しく燃え盛り、一瞬で消えたと思ったらあのマレフィセントが立っている。

「おまえたち、私の客人に手を出すんじゃないよ。さぁ、道をあけるんだ」

 すると、ハートレスたちの瞳の輝きが静まり、どのハートレスたちも召使のようにマレフィセントへ道をあけはじめた。
 リクが「余計なことを」と彼女を睨む。

「俺、ひとりでもどうにかなった……」
「そのザマで強がっても、説得力はないよ」

 リクが闇を操るようになったのは、マレフィセントのせい。これまで出会ってきたハートレスを操るものたちは、みんな彼女と繋がっていた。ディスティニーアイランドを、友達の世界を闇に落としてきた大敵だが──いざ彼女を目の前にするとその不気味な魔力に圧倒される。この魔女に与するつもりは毛頭ないけれど、いまこの場でハートレスたちと魔女を退け、カイリを助けながらリクに闇の力を使わせないようにする夢のような力も策もなかった。
 マレフィセントが歩み出す。

「なにをぼうっとしているんだい。ついておいで。ここは長居するところじゃない」
「……どこへ行くの?」

 こちらの混乱を嘲笑うかのように、マレフィセントは黒い爪化粧をした指で杖を撫でた。

「決まっているだろう」

 優雅にマントを翻し、闇の女王は酷薄に笑う。

「私が支配する世界、ホロウバスティオンだよ。あの頃よりも、ずっとすばらしい城を手に入れたのさ」
「あの頃?」

 意味の分からない言葉に首をかしげながらも、とにかく苦しむリクを早くこの通路から出してあげたくて、マレフィセントに従うしかなかった。




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