ピーターパンとティンカーベルによって妖精の粉をふりかけてもらったのに、結局飛べないまま船倉を過ぎ、氷蔵室の冷気に耐え、台所へとたどり着いた。ピーターパンは初対面こそ生意気で仕切り屋でいけ好かない奴だったけれど、戦闘の腕は確かで、宙を飛び回りハートレス達を蹴散らしてくれる。
 台所へつくなりティンカーベルが天井近くを指したので、ピーターパンがそちらを見た。

「どうしたティンク?」
「ピーター? ピーターパンなの?」
「ウェンディ」

 澄んだ少女の声が聞こえた途端、ピーターパンが身を乗り出す。金網で仕切られた天井の向こう側から、小鳥のように可憐な少女が顔をのぞかせていた。彼女はピーターパンを見てほころぶように笑顔になったが、すぐ不安でいっぱいな顔に戻る。

「急いで! 海賊たちが部屋の外に!」
「何だって!? よし、すぐ行くから待ってて!」

 ピーターパンが二人を分かつ邪魔な金網を短剣でどうにかしようと奮闘するが、なかなか上手くいかないようだ。キーブレードでも開けない金網の隙間から、ウェンディ以外の人間の足がチラッと見えた。

「ウェンディ?」
「誰?」
「そこに、他にも女の子がいる?」
「え? ええ。短い赤髪の女の子がいるわ。だけど全然目を覚まさないの。ずっと眠っているみたいに──」
「カイリ!」

 たまらず叫んだ。ずっと探していた大切な人。

「カイリ!!」

 足の上に置かれていたカイリの腕がひとりでに床に落ち、僅かだが指が動いた。期待が大きくなる。みんなカイリは眠ったままというが、いまカイリに自分の言葉は届いていると。
 嬉しくなったのもつかの間、カイリたちの部屋から大きな物音がした。乱暴な足音がたくさん侵入する音にウェンディの悲鳴が続く。カイリの姿が見えなくなったところで、一切音がしなくなった。

「ウェンディ!? ソラ、上だ!」
「ああ!」

 金網は太く頑丈でどうにもできない。多少回り道になっても続く道を探したほうがいい。道を塞ぐハートレス達をこれまで以上に強引になぎ倒し、必死に船の中を駆けた。




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