「カイリが?」

 グーフィーの聞き返しにうんと頷く。

「たしかにカイリだった。ようやく会えたんだ」
「そうかあ。それじゃもう一度会いに行こう!」
「ああ」

 沈黙していたドナルドが、元気よく言った。

「賛成、立ち上がろう……早く立って!」
「あ、わりい」

 みんな同じ甲板の穴から落とされたらしい。リクとの会話の後、落ちた先は物置らしき狭い部屋の中で、グーフィーとドナルドが積み重なっている上に落ちた。一番下にいたドナルドはプリプリ怒りながら「ひどい目にあった」と愚痴っている。

「なあ、フィリアは?」

 予想できたことだが、この中にフィリアの姿は見当たらなかった。ふたりも「見ていない」と首を横に振る。きっとリクと共にいるのだろう。
 脱出前に、扉に取り付けられた細い窓から廊下の様子をうかがってみると、数え切れないほどのハートレスが見張っていた。しかし、今度は仲間がいるし強行突破できるはず。
 ふたりに合図を出そうとした時「ゴホン」とわざとらしい咳払いがした。聞き覚えのない声だ。振り向くと、タルや箱が固まっている裏から、全身緑色の衣装を着た少年が現れた。魔法なのか、宙に浮いている。

「ここから出るんだろ。手伝ってやろうか?」
「誰だい?」
「君らだけじゃ、まず無理だろうね」

 グーフィーの問いを無視して、少年は尊大な態度でこちらを見下ろしてきた。案の定、ドナルドがイライラと足を鳴らす。
 少年はこちらの表情をひとりひとり眺めると、不満を察したのかツンとそっぽむいた。

「そうかい。じゃ、どうぞご自由に」
「そういう自分も捕まったんじゃないの?」

 図星を突いたつもりだったが、少年は腕を組んでフンと笑う。

「僕は待ってるだけさ」
「誰を?」

 訊ねたとき、金色に輝く何かが飛んできた。虫みたいに小さい、よく見たら金髪の羽がある女の子だ。

「遅かったじゃないか。ティンカーベル」

 呼ばれた彼女はピーターパンの元へ寄って、口をパクパク、身振り手振りで何か伝える。

「そうか。そこにウェンディがいるんだな?」

 頷いて、ティンカーベルは再び続ける。

「もうひとり? もうひとり女の子がいるのかい?」

 キランキラン、こちらにはティンカーベルの羽音しか理解できないが、なにやら彼女は怒った調子になる。

「何言ってるんだ。だめだよ。ウェンディはたいせつな人なんだから」
「ハハァ、やきもちやいてるな」

 女性の名前に反応して、恋人をもつドナルドがニヤニヤ笑った。ティンカーベルがキッとこちらを振り向いて、ドナルドに近寄るとクチバシを蹴りあげる。小さいのにすごいパワーだ。
 やられたドナルドがグワーッ! と目を回す間に、ティンカーベルは扉の隙間から出て行ってしまった。焦ったのは少年のほう。

「お、おいティンク。扉を開けてくれよ!」
「ゴホン!」

 咳払いしながらキーブレードを見せつけると、少年はひとつ溜息を吐いた。

「僕はピーターパン」
「俺、ソラ」

 握手を求める手を掴もうとして、寸前で引っ込められる。

「いいか、一緒に行くのはウェンディを助けるまでだ」
「わかった。俺たちもカイリとフィリアを探しているんだ」

 ハートレスの数が多いため、仲間はひとりでも多い方がいい。
 何気ないこちらのひとことに、ピーターパンは「フィリアだって?」と食いついた。

「フィリアを知ってるのか?」

 しかし、ピーターパンは少し考える素振りをしたあとに

「いや、きっと同じ名前の別人さ。僕の友だちのフィリアなら、一緒にいるのは絶対、君たちじゃないからね」

 と、そっけなく答えて「さあ、急ごう」なんて仕切り始める。急かされるまま扉の鍵を開けるやいなや、ピーターパンは文字通り飛び出してしまった。

「もうっ、勝手に行かないでよ!」
「僕たちも行こう」

 怒るドナルドとなだめるグーフィーと共にピーターパンの後を追う。
 胸の鼓動が高まり、気が早る──やっと、やっとカイリに会える。
 ティンカーベルが言っていた「もうひとりの女の子」はきっとカイリかフィリアで、そこにいないもうひとりは、きっとリクといるだろう。
 リク──どうしてカイリとの再会を邪魔したり、闇を操るようになったのだろう?
 仲間の中からフィリアだけを連れていったことと、モンストロで彼女を抱きしめていた姿が繋がる。ひょっとしてリクってフィリアのことが好きなのか?  ハートレスによく狙われるフィリアを助けるために闇を操るようになったとか? それか、もしくはカイリのため……?

「うーーん……」

 いつもカッコつけて澄ましてて、余裕ぶった態度で、賢く、頼りになるし、チャンバラだってすごく強い──自慢の幼なじみ。
 これまでの人生のほとんどをずっといっしょにいたけれど、リクの言うことはいつも難しくて、たまに何を考えているかよく分からない。

「うーーーーん……」
「ソラ! さっきから唸ってばっかりだぞ!」
「だって、リクのことがよく分からないからさぁ……」
「リクとちゃんと話し合えるといいねぇ」

 グーフィーの笑顔に頷いたタイミングで、廊下の向こうから再びハートレスたちがたくさんこちらにやって来た。




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