海賊船に墜落したグミシップ。網を外し、扉を開けても誰も出てこない。侵入すると、中にいた者たちは全員気絶してしまっていた。操縦席に突っ伏すソラと他ふたりのマヌケな寝顔を眺めた後、フィリアの様子を確認する。シートベルトをしっかり装着していたおかげかケガはなく、ただ気を失っているだけのようだ。安堵の息を吐いた後、ベルトを外しそっと抱き上げる。まだ目を覚ます様子はない。

「このふたりだけ、先にあの部屋に閉じこめておくんだ」

 王の従者たちだけ先に牢屋代わりの物置部屋へ落とすようハートレスに指示を出し、ソラのみそのまま放置する。ひとり残されたソラがどういう反応するか見たかった。
 ソラが目覚めるまでの間、船長室のソファにフィリアを横たえ、カイリを甲板へ連れて行く。彼女が倒れぬよう柱に背をあずけさせたところで、やっとソラがグミシップから出てきた。能天気なもので、彼がまず一番にしたことは船首からの景色を眺めることだった。

「あいかわらず、のんきな奴だな」
「え──?」

 やっとこちらを振り向いて、ソラはようやく状況を理解したらしい。己が捕虜になったのだと。



★ ★ ★



「おまえから来てくれるとは思わなかったよ。また会えて良かった」

 大きな羽根帽子をかぶった髭面の男やハートレスが取り囲んでくる。そいつらを従え支配者のように見下ろしてくるリクは、まるで知らない人のようだった。

「フィリアとドナルドとグーフィーはどうしたんだ?」
「フィリアなら、ちゃんと安全な場所にいるさ」
「ドナルドとグーフィーは!?」

 するとリクはいらだった表情を隠さず、きつく睨んでくる。

「まだそんなことを言っているのか。そんなに仲間がたいせつか。おまえが捜しているのはあのふたりか? それとも──」

 リクが一歩横にずれたとき、その後ろに座るカイリが見えた。

「カイリ!」
「見ろ。おまえが遊んでいる間に、俺はカイリを見つけたぞ」

 駆け寄ろうとして、羽根帽子の男が左手代わりのフックを突きつけて阻んでくる。

「おっと。俺の船で勝手な行動は慎んでくれ」

 邪魔をするな。反射的にキーブレードで戦おうと思ったが、できなかった。仲間たちがいない今、敵の数が多すぎる。

「リク。おまえ、なんでこんな奴らと一緒にいるんだ!」
「俺はハートレスを操る力を手に入れた。もう恐れるものは何もない」

 ガンと頭を殴られたような衝撃だった。まさかリクが闇に傾倒するなんて。これまで出会ってきたハートレスを操る者たちは、全員闇に飲まれて破滅していった。想像したくないのに、リクもそうなる姿が脳裏を過る。イヤだ!

「ハートレスは危険な力だ。心を呑みこまれるぞ!」
「それは心が弱いヤツだけさ」
「リク──」

 小さい頃からずっと一番に側にいた。ケンカしたり、競い合ったことはあったけれど、これほど冷たい態度をされたことはない。何を言っても頑なに聞き入れてくれないリクに、どうしたらよいか分からず途方にくれた。

「この力でいろんなことができるようになった。こんなこともな」

 リクが手をかざすと自分の影が床からぬっと起き上がってきて、人形のように立体化した。思わずうわっと声が出る。
 リクから失笑が聞こえた。話は終わりだとでも言うように、彼はこちらへ背を向ける。

「大切な仲間に会わせてやるよ」

 リク、待って!
 言う間もなく、突然、足元の床が消えて奈落へ落ちた。




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