カイリはいなそうだし、鍵穴も閉じたし、この世界を旅立つタイミングだ。別れの時を察したのか、アリエルがかくれがにあった箱からカニのようなチャームを取り出して手渡してきた。

「これね、私が見つけたコレクションのひとつ。もらってくれる?」

 礼を言いながら受け取ると、アリエルが早口に言った。

「ソラたちは、いろんな世界を旅してるんでしょ? 旅が終わったら、外の世界のことたくさん聞かせてね」
「わかった。またこの世界に来た時に、きっと」

 アリエルは「きっとよ」と微笑み、トライデントをトリトンへ返しに行くというので、宮殿に設置されたセーブポイントが最寄りであることもあり、一緒に戻ることにした。
 仲間たちへ出発の声掛けしようとして、フィリアが未だに鍵穴が消えた場所を見つめていることに気がついた。海面からスポットライトのように射す陽の光に照らされて、彼女の肌や白い鱗が輝いている。少し悲しそうな表情で、何を考えているのだろう。なんだかフィリアが神秘的に感じられ、つい、声をかけられず見つめてしまった。

「ソラ。行くの?」

 視線に気がついたのか、海流に揺れる髪を片手でおさえながらフィリアがこちらを向いた。フィリアの人魚姿はもう見慣れたはずなのに、目があった瞬間ドキリとする。らしくなく、緊張しながら頷くとフィリアはまっすぐこちらに泳ぎ寄ってきた。もう横にピョコピョコ泳ぐこともない。
 ドナルドとグーフィーも呼んで宮殿に向かい始めた。アースラがいなくなった影響か、今は闇の気配も薄くハートレスは現れないようだ。手持ち無沙汰になり、隣を泳いでいるフィリアへ雑談の話題を探した。

「フィリア。泳ぎがすごく上手になったよな」
「ん、必死だったから」

 フィリアは控えめな照れ笑いをしたあと、ぽつぽつと言った。

「あのね、私、あの日ティーダと泳ぎの練習しようって約束したの」
「えっ、ティーダと?」

 フィリアはティーダを苦手としていたようだったから、約束を交わしていたことに驚いた。フィリアは頷き、苦笑する。

「私にはチャンバラが向いていないから、ブリッツを教えてくれるって。ブリッツのために泳ぐ練習をしようって。でも、泳げるようになっちゃった」

 ブリッツについては、ワッカとティーダが興味をもっていたスポーツで、女子チームもあるらしいことは知っている。
 あの夜、本島にいたであろう友だちや家族はカイリ以上に情報がない。
 迷ったあげく「そっか」とだけしか返せなかったこちらへ、フィリアは改めて「ソラ」と呼んでくる。先ほどと顔つきが違い深刻な表情だったため、向かい合って「なに?」と問うた。

「誰が何て言ったって。私たちは、ソラががんばってきたことを知ってるからね」
「ん?」
「キーブレードの勇者としてみんなを助けてきたこと!」
「ああ──」

 プンスコ怒るフィリア。もはや謝罪を受けたので、忘れかけていたことだった。トリトンに言われたことを、フィリアなりに気にしていたのだろうか。
 
「うん。ありがとう」

 思いやりに礼を言ったはずが、フィリアはまだちょっと不満そうに頬を膨らませていた。別に高尚な目的とか誰かに感謝されるためにやっているのではなく、自分にできることをみんなに助けられながらやってきただけだ。なぜフィリアがそこまで怒るのだろう。顔色を窺うように見ていると、今度は拗ねたように言った。

「ずっとソラと旅してきたもの。誤解されたら悲しいし、悔しいよ。だから、今回は誤解が解けて本当に良かった」

 笑顔で旅をする約束だ。また変顔でもしようか考えていたところ、言葉の最後でフィリアがやっと笑ってくれたのでこちらもホッと安心する。

「ソラ。フィリア」

 その場に留まって会話していたので、随分先に進んでいた仲間たちから「早く来い」と呼びかけられた。片手を振ってそれに応え、追いかけようとフィリアに声をかける。可愛い笑顔の返事に嬉しくなって、いまはその他のことを考えないようにした。





 To be continue... 




R3.12.29




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