「後悔させてあげる!」

 アースラがトライデントを振り上げると、大きな雷がいくつも海の中に落ちてくる。海水の中を電流が走るので、目に見える範囲よりも遠くに逃げなければならない。
 覚えたてのマーメイドキックがめきめき上達するのを感じる。休憩したいほどヘトヘトだったが、アースラは攻撃の手を休めてくれない。

「吹き飛んでおしまい!」

 次に、アースラは唇を尖らせ大きな泡をいくつも吐きだしてきた。主にソラを狙った泡は、ただの水泡かと思いきや氷の魔力が籠められている。安全地帯はアースラの後頭部付近。思い切ってアースラの側に近寄ろうとすれば、アースラは深く息を吸い込んでこちらを噛みちぎろうとしてきた。
 ドナルドが叫ぶ。

「みんな、バラバラになって攻撃するんだ!」

 とにかくみんな止まらないように、海流の流れを利用したり逆らったりしてアースラの周囲をウロチョロ泳ぎ続けながら彼女の隙をうかがった。
 グーフィーが甲羅に引っ込んだ状態でアースラの鼻に体当たりする。強打に鼻を赤くしたアースラは怒り狂って雷を落とし、その無防備な首の後ろ側をソラとアリエルが攻撃した。アースラがうるさそうに顔周囲を手で払ったので、遠くからドナルドとアースラの顔を狙って炎の魔法を打ち込み、気づいた魔女は水泡を吐き出し相殺した。
 どうにもこうにも、相手が巨大で攻撃を与えても多少痛がる程度なもので、ケロリとしている。なにか決定打はないか。
 チクチク攻撃している間に、アースラから再び巨大な魔力が動く気配がする。

「おしおきの時間だよ!」
「みんな、身を守れ!」

 アースラが黄金のトライデントを振り上げるのと、ソラの指示は同時だった。海の怒りに呼応した雷が真っ黒な空から数え切れないほど降り注いでくる。目がくらむほどの金の光と、耳鳴りがするほどの爆音に襲われて、しらばく海の中をぐるぐると押し流された。それでも風の魔法を纏っていたおかげかケガはない。くらくらする頭を抑えつつ仲間たちを探せば、同じく魔法で身を守ったドナルドや甲羅に引っ込んで無事だったグーフィーはすぐ側にいた。
 ソラとアリエルはどこに──その時、アースラの鼻や頬がベチッと叩かれ、勇猛に立ち向かっている彼らを確認する。
 ドナルドは頭のてっぺんの羽根先がちょっと焦げていることに不満そうだった。

「あんな技、何度もやられたらもたないぞ」
「すごかったねぇ」

 アースラはこちらを見下ろし「しぶといね」と吐き捨てていた。トライデントがまた強く輝きだす。
 巨大になった体。強大な力を与えるアイテム。

「まるでランプの精になったジャファーみたい」
「──それだ!」

 思ったことを呟くと、ドナルドがひらめき顔でグワッと鳴いたので気がついた。ジャファーのランプ、アースラのトライデント。どちらも力を秘めたアイテムによる強化にすぎない。

「ソラーッ!」

 さっそく三人でソラを呼び、それぞれジェスチャーでアースラのトライデントを手放させようと伝えた──のだが、肝心のソラはキョトン顔で「何しているんだ?」って言いたげだった。代わりに同じくこちらを見ていたアリエルがちゃんと気づいてくれて、彼女がソラに耳打ちすると、やっと「わかった!」と笑顔で頷いていた。
 ソラとアリエルが目にも止まらぬ速度でアースラの注意を引く。アースラは血走った目をギョロギョロ動かして、何とかふたりを捕らえようと苛立っていた。

「グーフィー、フィリア、いこう!」
「うん!」

 ドナルドの泳ぎについてゆく。グーフィーも「任せて」と笑っていた。
 アースラが空いている手でアリエルを叩こうとしているタイミングで、トライデントを持っているひとさし指にグーフィーの体当たりが命中し、中指にドナルドの炎が当たり、薬指に自分が放った雷が感電し、緩んだアースラの手からするっとトライデントが離れてゆく。
 トライデントを手放しそうになって、アッとアースラがトライデントへ意識を向けた。そこへマーメイドキックで加速したソラがアースラの顎下から仰向けに反るほどキーブレードを振り上げる。ダメ押しにアリエルがアースラの手の甲を尾びれで叩きトライデントを完全に手放させた。
 悲鳴を上げるアースラから莫大な魔力が霧散してゆく。先程と逆で、今度は風船が萎むようにアースラはどんどん元のサイズへ戻ってゆき、終いには海の底に溜まっていた黒い霧の中へ溶けるかのようにふつりと消えてしまった。




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