ウツボたちが泡になって消えたとき、アースラが小さく悲鳴をあげた。ショックで放心したかと思いきや、すぐに力に任せこちらを振り払ってきて巻貝の中へかけこむ。

「お、おぼえておいで!」
「待て!」

 すぐにソラとアリエルが追いかけたけれど、アースラが入ったとたんに魔法の力なのか巻貝の入口がふさがってしまった。

「この、この!」

 ドナルドが巻貝を杖でポカポカ殴りつけたが何も起きない。アリエルも巻貝を調べ歯噛みしていた。

「トライデントを取り返さないと! 急いで、後を追いましょう」

 キーブレードを向けても巻貝が何も変化がないことを確認したソラが首を振る。

「もう、ふさがっているぞ。仕方ない、他を探そう」
「他の場所って? アースラだって、まだ鍵穴の場所を知らなそうだったし……」

 この巻貝がどこへ繋がっているかも分からない。みんな黙り込んでしまった時だった。

「地形から見るに、大海のよどみにある、激しい海流の通路の先に繋がっているはずだ」

 セバスチャンの発言にみんなパっと彼を見る。注目を浴びたと自覚した彼は大げさに咳払いした。

「あそこまで泳げる人魚はそれほど多くいないがね。昔はよく隠れたデートスポットとして──」
「よし、行ってみよう!」

 ソラの合図でドナルド、アリエルがぴゅーっとアースラの岩窟を出て行った。セバスチャンはポカンと口を開け、「話は最後まで聞きなさい!」とハサミをぐるぐるまわしてみんなを追いかけ始める。グーフィーと顔を見合わせ、セバスチャンをそっと掌に包んで自分たちも彼らの後に続いた。

 そして数分後。セバスチャンの言っていた激流の通路を前に、周囲にイルカが一頭も見つからなくて冷や汗をかいていた。
 アリエルがこちらを振り向いて、やる気に満ちた笑顔で言う。

「こうなったら仕方ないわよね。いまからあなたたちにこの中を泳ぐコツを教えるわ」

 更に数十分後。陸の上だったら滝のような汗を流しているだろう努力を経て、コーチ・アリエルからマーメイドキックを教えてもらった。
 ソラたちは完璧にマーメイドキックをマスターしていたが自分はやっと八割といったところで、ソラに手を引いてもらってなんとか先の通路にたどり着くことができた。
 通路の先は不気味な雰囲気の激流に包まれた、ただただ広い空間だった。生き物も岩壁も濁った海水の中に隠されていて全く見えない。まるで世界の果てのような場所に思えた。
 待ちわびていたのだろう。アースラはトライデントを持っていて、憤怒の形相でこちらを振り向くなり高く泳ぎ上がった。

「思い知るがいい。あたしがこの海の支配者だよ!」

 トライデントが金に輝くと、アースラが空気を入れられた風船のようにどんどん大きくなっていって、辺りには黒いもやが漂い始める。

「海とそこに属する全てのものは、みんなこの女王にひれ伏すのだ!」

 首を真上に向けても足りないくらい、アースラは今まで見たどんな生き物よりも大きくなっていった。彼女のタコ足が迫ってきたためみんな急いで上に昇る。眼前に現れたのは輝くトライデントと王冠を身に着けた海の女王アースラ。顔だけで大型のハートレスほどのサイズになった彼女は、歯を見せて不敵に笑っていた。




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